【岩野桃亜(中)】スケートとの出合い、異文化の中で揉まれたノービス時代
日刊スポーツ・プレミアムでは毎週月曜に「氷現者」と題し、フィギュアスケートに関わる人物のルーツや思いに迫っています。
シリーズ第38弾は岩野桃亜(20=倉敷FSC)が登場します。全3回の中編では、人見知りの性格だった幼少期から、全国の表彰台へ駆け上がったノービス時代までを描きます。(敬称略)
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◆岩野桃亜(いわの・もあ)2004年(平16)3月20日、韓国・仁川生まれ。日本人の母と韓国人の父を持つ。3歳からスケートを始め、帰国した7歳からは神戸クラブに所属。12歳から拠点を関大に移し、長光歌子に師事した。2014年全日本ノービス選手権(Bクラス)で優勝。翌2015年はAクラスで3位、2016年2位。2020年にアイスダンス転向を目指すも、パートナー探しに苦戦。2024年10月の中四国九州選手権で3年半ぶりに競技復帰した。161センチ。
きっかけは、レストランから見ていた「お姉さん」
独特な香辛料の香り漂う、韓国西部の都市・仁川。ソウルの隣に位置する近代的な港町で、母・友美(ともみ)の陰に隠れて周りをうかがう1人の幼い女の子がいた。春を思わせる「桃」に、アジアの「亜」を重ねた「桃亜」。日本人の母と韓国人の父を持つ岩野は、友美の服の裾を握りながら、恥ずかしそうに目線を落としていた。
「人見知りがものすごく激しくて。母親から1秒も離れられないくらい人見知りでした。もの静かで、内気で、何も自分から話すこともない、そんな幼少期でしたね」
そんなおとなしい女の子がフィギュアスケートと出合ったのは、3歳のとき。ちょうど、ソウルに越したころだった。
今でも鮮明に覚えている。2007年(平16)3月。3歳の誕生日に、家族でテーマパーク「ロッテワールド」へ出かけたときだった。日本の大型ショッピングモールによくあるような吹き抜け構造で、その中央にスケートリンクが設けられている。お姫さまのように、可憐に舞う女性たち。リンクを見渡せるレストランの一席に着いた岩野は、氷上でくるくる回るその姿に見とれていた。目の前に並ぶごちそうよりも、ずっと興味を引かれた。
「たまたまお姉さんたちが衣装を着て滑っているのを見て。最初は、その衣装を着てみたいっていう好奇心で、自発的に『これをやりたい』と言ったことがきっかけでした。一番の原点はお衣装だったかもしれないですね」
それまで、自発的に「これがやりたい」などと主張してこなかったためか、友美はその日中に担当者へ話を通してくれた。物静かな一人娘が、スポーツを通じて仲間と出会えたら、という思いもあったのかもしれない。
それからはとんとん拍子でことが進んだ。スケート靴を履いたのは、誕生日会からわずか1週間後。すぐに地元のクラブに入所して氷の上に立つ練習から始め、徐々に、滑る、回る、と段階を踏んで氷に慣れていった。特にスピンの練習が好きで、4歳でシットスピンやレイバックスピンを習得。コーチからも「足首の使い方が上手」とそのポテンシャルを認められた。後から友美に聞くに「スケートをやめないで、続けてみてください」と、選手コースを勧められていたらしい。
当時の記憶はもうはるか向こうに遠ざかってしまったが、それでも、同じクラブの先輩が世話をしてくれたことはよく覚えている。
「韓国って、年上年下とかっていう上下関係がすごくあって。自分より年下の子はもう無条件にかわいがるっていう文化なんです。とにかく一番下っ端なので、愛情のかけ方っていうんですかね。みんな本当のきょうだいとかではないんですけど、すごくかわいがってくれて。お姉さんたちに会いたくて行っているところもありました」
早くから始めた岩野は常に一番年下で、周りは2、3歳上の「お姉さん」たち。先輩たちの中にいると、気づけば髪にピンがつけられていたり、結わえられたり…。靴紐が外れれば率先して誰かが結んでくれ、お下がりの洋服をもらうこともあった。
そんな愛情を受けるうちに自然と社交的になり、人見知りをしていた頃の面影はなくなっていった。
だが、楽しい日々は永遠ではなかった。
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大阪府泉大津市出身。2022年4月入社。
マスコミ就職を目指して大学で上京するも、卒業後、大阪に舞い戻る。同年5月からスポーツ、芸能などを取材。
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