<高校サッカー:滝川二5-3久御山>◇決勝◇10日◇東京・国立

 全国4185校の頂点を決める選手権決勝戦。後半終了間際に左のまぶたを負傷。5針を縫うケガにも最後まで滝川二(兵庫)のゴールを守ったのはGK中尾優輝矢でした。

 栫監督の方針もあり今大会は中尾と、同じく3年の下出晃輔が2人でゴールを守ってきました。「2人の間に大きな差はない。3年生だし、どちらにも同じように経験させたい」と栫監督。準々決勝まで中尾と下出がそれぞれ先発出場し迎えた準決勝。

 監督が下した決断によって、3回戦、準々決勝の2試合を無失点で抑えた中尾ではなく、下出が先発出場することに。その下出はPK戦までもつれた試合で大活躍。準決勝終了後、記者に囲まれる下出の姿を見つめながら「あれが自分だったかも知れないのに…」と悔しさをにじませていましたが、しかし今まで自分が出場したどんな試合よりも声を出し、チームメート、そして何より下出にエールを送り続け、自分もベンチから戦いました。

 下出がチームを勝利に導いた準決勝だったからこそ、「決勝は自分が出て本当にいいんだろうか」と試合の前は複雑な気持ちだったと言います。しかし下出から「ちゃんと決勝につないだよ。最後はお前が頑張れよ」と声をかけられ、自分がやるしかないんだと全力プレーを強く胸に誓いました。

 久御山(京都)の最後まであきらめない攻撃陣を前に3失点。「失点数が多くて内容的には満足できない悔いの残る決勝になってしまいました。でも、最後は体をはって止めることができた。勝てたというのは良かったと思います」と、ほっとした表情を見せたあと、続けて「僕がたまたま決勝のピッチに立つことができたけど、これは下出と2人で頑張った結果だと思います。あいつが準決勝でPKを止めてくれなかったら、このピッチに僕は立てなかったし、優勝もできなかった」と、下出への感謝の気持ちを語りました。

 後半、3-1から4-3となり、後半ロスタイムにFW樋口寛規が5点目を決めるまでは、久御山に攻撃の主導権を握られる苦しい時間帯が続きました。しかし、そこで最後まで粘り強く守ることができたのは、夏のインターハイ決勝の経験があったから。市船橋(千葉)相手に先制したものの、その安堵感から立て続けて失点。最後は1-4と大差で負けてしまいました。「あの教訓を生かして、今日はリードしていても、最後まで気を抜かずに守りきろうとみんなで声をかけあいました」と、悔しい経験を糧にチームは大きく成長し、「全国大会決勝の舞台を2回経験したチームは、今年は自分たちだけ」という自信が、決勝の舞台で差となって表れました。

 インターハイの決勝には下出が出場。中尾にとっては初めての全国大会決勝の舞台でした。GKになったのは他に選手がいなかったから。「ずっと嫌で嫌で仕方がなかった」と言います。中学までの所属チームは決して強くなく、滝川二を選んだのも、「友人に誘われて」。しかし「あきらめずに頑張り続ければ、チャンスは必ずやってくる」。3年間の努力が「人生で最初で最後だと思う」という大観衆の国立の舞台に立つチャンスへと変わりました。負傷した左まぶたの痛みに耐えながら「優勝できたのはうれしいけど、自分のプレーには悔いが残る。自分にはまだまだやらないといけないことがあるということですね」と話した中尾。卒業後はさらなる高みを目指して、そして再びチャンスをつかむために、大学でもあきらめず努力を続けます。(サッカーai編集部

 阿部菜美子)