GK山根恵里奈(24=千葉)は4年前、なでしこジャパンが初優勝したW杯ドイツ大会を1試合も見ていない。当時は福島・Jヴィレッジを本拠地とした東京電力マリーゼに所属していた。東日本大震災による原発事故の影響で、チームが活動自粛となるなど、サッカーどころではなかった。

 当時を知る、JFAアカデミー福島総監督の今泉守正氏(54)は、意気消沈した山根が口にした言葉を覚えている。「サポートしてくれていた楢葉町や富岡町の人たちが大変な状況にある。私にはやることがあるんじゃないか。避難所に行ってできることをやりたい。お世話をしたい」。ボランティア活動への使命感が大きく、W杯をテレビ観戦する気が起きなかった。

 そんなある日、避難所で「あなたがいる場所はここじゃないでしょ」と声を掛けられた山根は、われに返ったという。今泉氏は言う。「『もうサッカーをやめようかな』って言っていたけれど、自分が『選手として応援してもらえることが一番の恩返しじゃないか』と考えられるようになった。だから今があるんだと思います」。

 日本サッカー協会が04年に実施した「第1回スーパー少女プロジェクト」で資質を見いだされた。当時、中2だった172センチの原石は187センチまで成長した。前回ドイツ大会の登録メンバーのGK最長身は181センチ。なでしこの弱点を補う、世界トップクラスの高さを武器に初の大舞台に挑む。【鎌田直秀】