初のW杯に臨むMF永里亜紗乃(26)について、父正彦さん(54)と母美智子さん(52)は「3人の中でもセンスは1番」と口をそろえる。兄源気(タイ1部ラーチャブリー)姉の大儀見優季(ウォルフスブルク)もプロ選手。その2人よりもあらゆる面で感覚的に優れているのだという。

 努力家の優季とは正反対の亜紗乃。3歳で習い始めたピアノもすぐに上達。中学の美術では、オルゴールの箱に彫刻刀で複雑な図柄を刻んだ。正彦さんは「設計図はあるのか? と聞くと『ない』という。頭に描いたものを形にしてしまう。その部分はサッカーに生かされている」と話す。

 ただ天才肌ゆえ、明確な目標を持たないままプレーを続けてきた面もあった。思春期の高校時代、化粧をし、交友関係の広がりからか両親が知らない携帯電話が2台、3台と増えていった。「不良になるからとかじゃなくて、1つのことをやり通して欲しかった。真剣にサッカーをやらないんなら、やめなさいと叱った」。正彦さんは自宅の窓から携帯を投げ捨てた。

 そんな亜紗乃の転機は13年1月。スポーツ用品販売「ゼビオ」を退社。単身でポツダムの練習に参加し、契約を勝ち取った。1対1の争いが基本のドイツで、攻撃力に加え、守備でのボール奪取力も飛躍的に向上。「腹をくくったんでしょうね。ドイツでまた1つ世界が開けた。もっとやりたいことが出てきていると思う」と正彦さん。本気になった天才の伸びしろは無限大。大舞台をさらなるステップにする。【千葉修宏】