もしかしたら、今回のW杯メンバーリストにDF北原佳奈(26=新潟)の名前はなかったかもしれない。
「今シーズンでサッカーをやめようと思います」。
3年前の冬、藤枝順心高の多々良和之監督(50)は耳を疑った。北原の母校であった年末の蹴り納め。新潟で定位置をつかみ帰省した教え子の口から、予想と真逆の言葉が出たからだ。
昔からそうだった。中学で身長が170センチを超えていたが「リーダーシップが全くない。精神的なひ弱さ」(多々良監督)が成長を阻んでいた。高校1年の時に初めて世代別代表に呼ばれた時も周囲のレベルの高さに萎縮し、自信を砕かれた。代表どころか自校でも試合に出られなくなった。
北原も認める。「自信の持てない子でしたね。ミスしたら必ず試合終了まで引きずったり。あの時は、やめたい思いと続けたい思いが半々。アルビ(レックス新潟)の期待通りに成長できず、申し訳なくて…」。
多々良監督は「静岡に戻るか?」と声を掛けたが、感情を打ち明けた北原の表情は晴れていた。年明けに新潟へ戻ると、元G大阪の入江徹コーチの元へ向かった。休みの日も1対1などの対人練習に付き合ってくれた。不安が自信に変わっていく。あの日から半年後の13年7月、東アジア杯に臨む代表に初招集された。
藤枝順心高のなでしこジャパン第1号。昨年はアジア大会も経験した。丸亀で競争中の北原は「選ばれたからには絶対、W杯のピッチに立ちたい」。力強い声からは、弱かった過去が想像できない。【木下淳、保坂恭子】