上気した顔に柔和な笑みを浮かべていた。W杯カナダ大会のメンバー発表から8日後、5月9日の夜。佐々木則夫監督(57)は、故郷の山形・尾花沢市内のすし店で、親友の小林正宏さん(56)らと酒を酌み交わしていた。「3番目の色でもいいから、メダルを取って(なでしこの勢いを)東京五輪までつなげろよ」。小林さんが、そう激励すると、佐々木監督は「まんざらでもない表情」で、うなずいていたという。

 小林さんは、親友の指導者としての成功の要因は「横から目線」のスタンスにあるとみている。「選手に『ノリさん』って呼ばれているでしょ。女子だからといって上からではなく、1歩引いて同じ目線に立って選手に接している。人間的に表裏がないんです」。

 同じ目線に立って、チームの一体感を高めようとする姿勢は、少年時代からあった。佐々木監督が主将を務めた東京・帝京高では、控えの3年生が1年生の主力のスパイクを磨いていたという。

 小林さんの記憶では、佐々木監督の呼び掛けで始まった。「埼玉に引っ越して、なかなか尾花沢弁が抜けなくて、友達付き合いに苦しんだ時期があった。人の痛みが分かるヤツなんです」と言う。

 宴席の最後、佐々木監督は「澤を選んだのは、サプライズでも何でもないんだよ」と漏らしたという。50年近い付き合いの小林さんは「則夫の性格からして(澤と)心中するぐらいの気持ちじゃないですかね」と笑った。【高橋洋平】