DF近賀ゆかり(31)は、この2年間「スカウティングファイル」をつづっている。しかし、そこにはリバプールやチェルシー、日テレや浦和といったライバルチームの名前は出てこない。それもそのはず、中身はロンドンや神戸の有名なパン屋をリサーチしたものなのだ。
調査は入念。パン自体の写真、食べた感想だけでなく、店の外観やメニューの写真まで添える。「INACの神戸も、アーセナルのロンドンも有名店がたくさんあるからと、ファイルをつくってくれるようになったんです」。説明するのは兄健太郎さん(34)。Jリーグ千葉のアマチュアチームなどでプレー後、パン職人として独立するため、修業を重ねてきた。
日の出前から店で仕込みを始め、帰りは深夜。すべてをパンにささげる兄のため、近賀は右サイドを駆け上がる運動量を街でも発揮し、練習や試合の合間を縫って有名店をめぐってきた。健太郎さんは「その気持ちがありがたかった。おかげさまで独立できることになりました」と明かした。7月、横浜市上大岡に「boulangerie onni(ブーランジェリー・オンニ)」を構える。
「前回のW杯の時に、自分もパン職人の修業を始めた。そして今回も、妹のW杯と同時に、僕も店を立ち上げる。毎回、人生の節目が一致するんですよね」と健太郎さん。W杯優勝などの活躍、そして真心込めたファイルで、近賀は兄の励みになってきた。さらに今回W杯で連覇を果たせば、それは何よりの開店祝いになる。【塩畑大輔】