「スピルバーグ・ノリ」の演出も、選手たちを混乱に陥れただけだった。2-5とリードされ、何としても得点がほしかった後半も半ばを過ぎた25分前後のこと。なでしこ佐々木則夫監督(57)は、今まで練習したこともない3バックを突然指示した。「有吉上がれ!」。オーバーラップが売りの右サイドバック有吉を1列上がらせ、右MFとしてより攻撃に参加させようとする意図だったが、選手には伝わらなかった。
DF4人を3人にすると聞き、最初はセンターバックに入っていたMF阪口が、本来のボランチの位置に戻ろうとする勘違い。その様子を見ていた主将の宮間が「もういい」とばかりにDF陣を手で制し、4バックに戻させようとする場面もあった。
佐々木監督はその後、味方のCKの場面で阪口を呼び付け、有吉を上がらせる布陣を説明。後半27分からは有吉が右MFとなり、DFは宇津木、阪口、熊谷の3人で守った。その後は失点こそなかったが、不慣れなシステムで得点を奪うこともなかった。そして終了間際には自然と4バックに戻った。
試合後、熊谷は戸惑いを隠さず、「求められるのであればやらなきゃいけない。プラスに考えればバリエーションが増えるということ。監督がそういう指示をするのなら、ポジティブにとらえて次につなげたい」と「大人の対応」を見せた。だが、チームづくりの段階から4-4-2に固執し続けた佐々木監督が、決勝という大舞台でまさかの3バック指示。選手たちの心には疑問しか残らなかった。