「何かがおかしい…」
今季のレアル・マドリードに、おそらく誰もが感じている印象ではないだろうか。
欧州スーパーカップを制したのを皮切りに、シーズン開幕から公式戦10戦無敗をキープするなど順風満帆の滑り出しを見せていた。今季ここまでの公式戦19試合の成績は12勝3分け4敗。しかし、直近の公式戦5試合でそのうち3敗を喫していることで、危機的状況とささやかれ出している。スペインリーグでは暫定で3位につけるも、欧州チャンピオンズリーグ(CL)では1次リーグ敗退寸前の24位と苦戦中だ。
■本来の左でなく中央でプレー
Rマドリードはなぜこのような状況に陥っているのか? その大きな原因はエムバペの適応、クロースの引退、けが人続出の3つと考えていいだろう。
今夏、長年の紆余曲折を経てようやくエムバペを獲得したことで、ビニシウスやベリンガム、ロドリゴと共に世界一強力な攻撃陣を形成するのではないかと大いに期待されていた。しかし、いざシーズンが開幕すると何かがうまくいかない…。レギュラー陣の顔ぶれで昨季と違うのは引退したクロースと新加入のエムバペが入れ替わったことだけだが、チームには大きな歪みができてしまった。
クロースは24年のバロンドールで9位に入り、イタリア紙トゥットスポルトからゴールデンプレイヤー(21歳以上の最優秀選手に贈られる賞)を授与され、ザ・ベストFIFA2024最優秀選手賞にノミネートされているほどの選手。誰も稀代の司令塔の代役を務めることはできず、チームはゲームコントロールに難を抱えている。
エムバペは本来のポジションがビニシウスと被るため主にセンターフォワードとしてプレーしているが、うまくフィットしているとは言い難い。チームメートとの連携はあまり機能しておらず、決定力不足を批判され、さらに守備をしないとの指摘もある。成績だけ見れば公式戦18試合9得点2アシストと大きな問題はないように見えるが、そのうち3ゴールはPK。1試合平均1得点という偉大な成績を残したクリスティアーノ・ロナウドの素晴らしい思い出を持つマドリディスタからすると物足りない出来だ。
直近3回の敗北となったバルセロナ戦ではオフサイドに8回かかり、ミラン戦ではシュートを8本打つも無得点、リバプール戦では同点のチャンスとなったPKを失敗。これらのビッグマッチで勝負強さを発揮できないその姿に、ゲルト・ミュラー・トロフィー(クラブと代表で最多得点を記録した選手に贈られる賞。エムバペは昨季52得点を記録)を受賞した選手の面影はない。
「キリアンが抱えている問題は我々全員の問題」と擁護しているアンチェロッティ監督は、エムバペのポテンシャルを最大限引き出せるよう試行錯誤し、さまざまなシステムやポジションをテストしているが、ここまで最適解を見つけられていない。
■ビニシウス「クレイジーな日程」
さらにけが人続出という問題が重くのしかかっている。今季負傷していないのは、ルニン、フラン・ガルシア、リュディガー、バルベルデ、モドリッチ、ギュレル、エンドリッキの7人のみ。
昨年12月から負傷欠場の続くアラバに加え、シーズン開幕からの3カ月半で、カマビンガ、チュアメニ、カルバハル、ビニシウス、ミリトンが各2回、ベリンガム、メンディ、バジェホ、セバージョス、ブラヒム・ディアス、エムバペ、クルトワ、ロドリゴ、ルーカス・バスケスが各1回と、トップチームの3分の2を占める14人が何らかのけがを負っている。さらにカルバハルとミリトンは今季絶望という最悪な状態だ。
特にDF陣に問題を抱えているため、バルベルデやチュアメニなどを本来と別のポジションで起用し、下部組織から選手を引き上げて対処しているが、いくら名将アンチェロッティといえども、この状態で満足いくチームを作ることはさすがに難しいようだ。
欧州CLの1次リーグですでに2敗していたRマドリードにとって、アウェーで行われた直近のリバプール戦は非常に重要な一戦であった。しかし、アラバ、カルバハル、ミリトン、チュアメニ、ビニシウス、ロドリゴと多数の主力を欠き、招集メンバーにBチームの6人を加える厳しい状況下で臨まざるを得なかった。加えてリバプールは欧州でも特に好調なチームだったこともあり、攻撃陣が機能せずに圧倒されてしまい、0-2で敗れた。
今季2回目の負傷を負った時、ビニシウスが自身のXに「クレイジーなカレンダー…」と投稿していたことでも分かる通り、ここ数年大問題となっているサッカー界の異常なほどの過密日程がRマドリードの今の状況に大きな影響を及ぼしている。主役であるはずの選手たちがこのように声を上げているにもかかわらず、状況が改善されるどころか、試合数や大会は増加する一方だ。
■クロスからのシュート数は最下位
チーム状況がどうであろうともスケジュールは待ってくれない。Rマドリードはこの後、18日のインターコンチネンタルカップ決勝1試合のためだけにカタールへ移動し、さらに来月半ばにはスペイン・スーパーカップのためにサウジアラビアへ行かなければならない。今でもギリギリのフィジカルコンディションが、さらに厳しい状況に陥ることは安易に予想され、これまで1度もけがをしていない7人がいつ負傷者リストに名を連ねてもおかしくない。
これらの問題に加え、Rマドリードは今季、クロスの精度が課題になっている。スペインリーグでここまでクロス(FKやCKは含まず)を183本上げているが、シュートにつながったのは20チーム中最下位のわずか9本。その原因として昨季所属したホセルの役割を果たすようなターゲットマンがいないこと、ベリンガムが昨季よりゴールから遠い位置でプレーしていることなどが考えられ、特に負けている状況下で使用できる貴重なオプションがないことを意味している。
けが人続出のDF陣において、新しく加わったアセンシオが及第点以上のパフォーマンスを発揮していることは、チームにとって数少ない明るい光となっているが、選手層の薄さが大いに懸念されている状況に変わりはない。アンチェロッティ監督は年内最終戦を終えた後に、冬の移籍市場で選手獲得に動くかどうか話し合う予定であると明言しているが、前人未到の7冠達成を目指す戦いを続ける中、今のこの状況をどう乗り切るか、その手腕に注目が集まる。
【高橋智行通信員】(サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」/ニッカンスポーツコム)