<第90回箱根駅伝>◇3日◇復路◇箱根-東京(5区間109・9キロ)

 痛快な倍返しで、東洋大が2年ぶり4度目の総合優勝を果たした。ライバル駒大に59秒差をつけて復路をスタート。競り合いが予想される中、各区間でライバルを引き離し3区で区間賞を獲得。4分34秒の大差をつけ、5時間25分38秒の復路新記録を樹立した。総合タイム10時間52分51秒も歴代2位の好タイム。駒大の年度3冠を阻止し、完全Vで王座に返り咲いた。「その1秒を削り出せ」をテーマに、新たな黄金時代を築く。

 お決まりのガッツポーズの前に、やるべきことがあった。右手の人さし指で左手甲をさしながら、アンカー大津顕杜(4年)がゴールに向かって疾走する。その甲に書かれた「その1秒を削り出せ」。文字をカメラの放列に掲げながら、笑みであふれる仲間の輪に飛び込む。大歓声がこだまする大手町のビル群に、王者復活ののろしが上がった。

 21秒差という史上最少タイム差で早大に屈し、2位に甘んじた3年前の箱根路。あの悔しさから生まれたチームスローガンが「その1秒を削り出せ」。往路2選手に続き、この日も4人が左手にしるした。その地道な作業が生んだ、歴代2位の総合タイム。酒井俊幸監督(37)にとっても、痛快な倍返しだった。

 昨年11月の全日本は、10月の出雲に続き2位に終わった。柔和なイケメン監督が、直後に関係者にもらした「倍返しする」の痛烈な言葉。その意味を打ち明けた。「やられたらやり返す。僅差でなく箱根で圧勝してです。離された差は合算すると、今日の差になるのでは」。駒大には出雲で1分6秒、全日本では3分10秒差で後塵(こうじん)を拝した。合わせて4分16秒。さらに18秒突き放す倍返し劇だった。

 「きのうの往路の走りが復路の選手の闘争心に火を付けた」。指揮官が全幅の信頼を寄せて送り出した選手が、覚悟を決めて迫り来るはずだった駒大の視界から、後ろ姿を消し去った。スタートの山下り6区で日下が59秒差を1分17秒に広げる。駒大9区に控えるエース窪田まで、2分の貯金は欲しい-。うれしい誤算で、7区服部弾、8区高久が連続区間賞で、その差は3分40秒。箱根デビューの9区上村が粘り、アンカー大津は区間新記録に迫る好走で完勝した。

 「脱柏原」の成就でもあった。「新山の神」柏原竜二(現富士通)という絶対エースが5区に控え、初優勝に輝いた09年からの4年間で優勝3回、2位1回。その神様卒業後の一昨年からの学生3大駅伝は5戦連続2位と苦悩は続いた。「心が折れそうになった選手もいたはず。それを闘争心あふれる気持ちと、きずなで走った。選手、コーチ、家族に恵まれました」。埼玉・川越の選手寮に、夫人と2人の子どもとともに一家を構える酒井監督も2位の呪縛を断ち切った。柏原世代の優勝との違いは「総合力で勝ち取ったもの」。新たな黄金期の幕開けだ。【渡辺佳彦】

 ◆11年大会VTR

 総合連覇中の東洋大は往路で3連覇。V3に王手をかけて臨んだ復路は、2位早大に27秒差をつけてスタートも、いきなり6区で逆転され10時間59分51秒で年度3冠達成の早大に対し、21秒遅れの11時間0分12秒で2位。ともに大会記録とハイレベルの戦いだった。