全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)は19年1月1日、前橋市の群馬県庁前を発着点とする7区間(100キロ)で行われる。
旭化成の3連覇がなるかが最大の焦点だ。MGC(※)出場権獲得3選手がいるトヨタ自動車、バランスの良い富士通を加えた3強は、どのチームが、どの区間でリードを奪っても不思議ではない。ホンダは設楽悠太(27)、MHPSは井上大仁(25)と、マラソンで2時間6分台の記録を持つ大エースを押し立て初優勝を狙う。現時点での予想をもとにレース展開を展望してみたい(正式区間エントリーは大会前々日の12月30日に決定)。
◇ ◇
【1区(12.3キロ)】各チームとも主導権を握りたい区間。失敗を避けたいため慎重に走る選手がほとんどだが、過去には思い切り飛びだした選手もいる。前回区間賞の住友電工の遠藤日向(20)は2区に回る予定で、1万メートル日本記録保持者の村山紘太(25=旭化成)が万全なら区間賞候補筆頭だ。展開次第では前回区間2位のトーエネック・服部弾馬(23)のラストスパートが勝るかもしれない。
中国電力の藤川拓也(26)と住友電工の田村和希(23)は青学大OBで、ともに今季1万メートルで初めて27分台を出した。2人とも3区の可能性もあるが、1区なら区間賞候補とみていい。1区の区間賞を2度獲得しているベテランの若松儀裕(32=日清食品グループ)も侮れない。
【2区(8.3キロ)】距離が最も短く、外国人選手が唯一走ることができる区間でインターナショナル区間と呼ばれる。区間賞最有力は東日本予選3区(インターナショナル区間)区間賞のベナード・キメリ(23=富士通)。東日本予選同区間位のロナルド・ケモイ(23=小森コーポレーション)は1500メートルのケニア代表で、今季は1万メートルでも自己記録を大きく伸ばしている。
旭化成は前回大会のこの区間をアブラハム・キャプシス(25)が走り、区間3位でトップに立った。1区終了時のポジションにもよるが、3強のなかでは旭化成と富士通は確実に先頭争いに加わっていそうだ。
【3区(13.6キロ)】日本屈指のスピードランナーが競演する。富士通は17年日本選手権5000メートル優勝の松枝博輝(25)、旭化成は5000メートル&1万メートルとも日本歴代2位の記録を持つ鎧坂哲哉(28)が有力。両チームとも3区でリードを奪いたい。
トヨタ自動車は12月2日の福岡国際マラソンを走った服部勇馬(25)と窪田忍(27)が4区に間に合えば、スピードのある藤本拓(29)をこの区間に起用できる。また2年前の同区間で区間賞を取った大石港与(30)もいる。大石が復調してこの区間に起用できると、後半の布陣に厚みが出る。
MHPSは目良隼人(26)か的野遼大(26)で、4区の井上に好位置でつなぐ役割が課せられている。前回3区終了時に12位だったホンダも同様で、4区の設楽に好位置でタスキを渡したい。そう考えると前回5区で区間2位だった山中秀仁(24)を3区に起用してく可能性もある。
【4区(22.4キロ)】本大会の最長区間であり、各チームのエースが集結する。前回区間賞の設楽は、福岡国際マラソンからどこまで回復しているかがカギ。設楽の回復が不十分なら前回区間2位の井上、日本選手権1万メートル優勝の大六野秀畝(26=旭化成)が台頭する。
トップ集団から30秒程度の後れなら、設楽と井上は追い上げ可能だろう。前回設楽は11人抜きを演じて1分32秒差があった旭化成に同タイムの2位で5区に中継した。井上も13人抜きで20位から7位に浮上している。
富士通の中村匠吾(26)とトヨタ自動車の服部は、上位でタスキを受けることが予想されている。仮に追いつかれても、終盤の粘り強い走りができれば5区にトップ中継できる。
前回からコースが変更になり、前半で小さな起伏が続く。この影響で「差がつきやすくなった」という声も出ている。この区間で独走に持ち込むチームが出るかもしれない。
【5区(15.8キロ)】北に向かう区間で向かい風(赤城おろし)を正面から受ける可能性が高い。この区間では旭化成の村山謙太(25)が2年連続で区間賞を取っている。前回はホンダとほぼ同時にタスキを受けたが、ダッシュを見せて引き離した。さらに後方のトヨタ自動車の追い上げもあると予想し、視界に入らない走りをして出はなをくじいた。
旭化成に対抗できるとすればトヨタ自動車だろう。服部か窪田もしくは早川翼(28)を起用して、村山謙にスキがあれば先行できる。
富士通はこの区間が手薄になるかもしれない。ベテランの星創太(30)や新人の大森澪(23)らが候補に挙がっているが、どこまでしのぐことができるか。
ホンダは前回区間2位の山中、調子を上げてきた服部翔大(27)、練習では強さを見せている足羽純実(23)が候補。MHPSは前回に続いて定方俊樹(26)か。両チームとも設楽と井上で上げた順位を、この区間で生かすことができれば初優勝も見えてくる。
【6区(12.1キロ)】距離こそ2番目に短いが、向かい風が選手を苦しめる。過去6大会、トップでタスキを受けたチームがこの区間で区間賞を取り続け、優勝を確定的にしている。前々回、前回と旭化成は市田宏(26)が区間賞を取り、チームの連覇に貢献してきた。市田宏は福岡国際マラソンに出場したが、疲労は小さく今回も6区出場が有力だ。
トヨタ自動車も15年、16年の連覇時には田中秀幸(28)が連続区間賞を獲得した。今季は故障が長引いたので出場はわからないが、トヨタ自動車が拠点とする愛知県田原市は風が強い地域なので、誰が走っても風に対する苦手意識はない。
富士通は1区候補の佐藤佑輔(28)か潰滝大記(25)のどちらかをこの区間に残すことができる。高橋健一駅伝監督も「もう1度勝負に出られる」と期待する区間だ。
【7区(15.5キロ)】向かい風が強いだけでなく、ゴールの群馬県庁が見え始めてからが長いので、メンタル面の強さも必要になる。旭化成は市田孝(26)が有力だが、福岡国際マラソンからの回復次第では佐々木悟(33)の可能性もある。前々回大会は4区、前回は3区で2年連続区間賞の市田孝の回復が順調なら、市田が3~5区に入り、7区は前回と同じ鎧坂が走るかもしれない。そうなれば旭化成は鉄壁の布陣といえる。
アンカーで旭化成に対抗できる選手を残すことができるのは、トヨタ自動車くらいだろう。早川や窪田、スピードのある松本稜(28)なら勝機はある。
ここ数年は5区でリードしたチームが6区で差を広げて優勝しているが、5区終了時点で数チームが接戦状態なら、向かい風の強い6区、7区は集団で進む可能性もある。09年は上位3チームが同タイム、11年は1位と2位が1秒差の激戦だった。平成最後の駅伝日本一決定戦は、どんなパターンでの決着になるだろうか。
※MGC=マラソン・グランドチャンピオンシップ。東京五輪マラソン代表選考会。