<世界陸上:目覚めよニッポン>男子400メートルリレー「北京の銅よ再び」
トラック競技で、日本人が世界と渡り合う種目がある。陸上界で通称「4継(よんけい)」と呼ばれる男子400メートルリレーだ。08年北京五輪の銅メダルは今も記憶に新しいところだが、00年シドニー五輪以降、世界大会で8連続で入賞している事実は意外と知られていない。身体能力に劣るとされる日本人選手がどう世界と戦っているのか。そこには「バトンパス」にこだわった日本伝統の戦略がある。
今月の男子短距離合宿(山梨・都留市)で「4継」の通し練習が行われた。小林雄一(法大)江里口匡史(大阪ガス)高平慎士(富士通)斎藤仁志(サンメッセ)とつなぎ、手動ながら39秒14を計測。斎藤が「最後は5割くらいに落とした」という走りだが、日本陸連の苅部短距離部長は「北京前も2回やって39秒中盤くらい。今日の方が速い」。伝統のバトン技術が踏襲されていることを示した。
北京五輪の男子100メートルでは、400メートルリレーで銅メダルを取ったメンバーでは唯一、塚原が準決勝(16人)に残った。だが米国、ジャマイカは各3人。個の能力では言うまでもなく日本より上だが、表彰台に届いていない。そこから見えてくるのは、バトンパスという組織力の差だ。
高野強化委員長主導のもと、日本は01年ころからアンダーハンドパスを採用した。一般的なオーバーハンドパスは受け手が後方に手を伸ばし、渡し手が上からバトンを渡す。アンダーは受け手が体近くで手のひらを下向きに構え、渡し手が下から渡す。オーバーに比べて選手同士が密着する分、距離は伸びない。しかし、苅部部長は「アンダーはより走りに近い自然な形で渡せる。オーバーだと肩を上げるので走りに無理がある」と説明する。
トップスピードでの受け渡しに磨きをかけた。400メートルには3度、走者がバトンをつなぐ「テークオーバーゾーン(TOZ=各20メートル)」がある。日本は北京前から、そのTOZに前後10メートルずつを加えた合計40メートルを「バトンゾーン」と独自に設定。前後に長く意識を持たせ、TOZをトップスピードで駆け抜ける感覚を磨いた。そのバトンゾーンの記録で北京時の3秒8を上回る3秒76を計測。苅部部長は「3秒7なら(400メートルを)37秒台を目指せる。そうなれば銅メダルは6、7割の確率で取れる」と自信を深める。
そして04年以降、世界大会6大会連続出場となる高平の存在だ。後輩たちに身ぶり手ぶりでバトンパスを事細かく指示。日本伝統の技が次世代へと受け継がれる。高平は「ベルリンでも北京から2人代わってあの結果(4位)。あそこらへんで走るのが普通になってきた」。人類最速を競う男子100メートルは83年ヘルシンキ以来11大会ぶりに日本人選手ゼロ。それでも組織力を生かした「あうん」のバトンリレーが、大邱でもひと波乱起こしそうなムードだ。【佐藤隆志】