<世界陸上:目覚めよニッポン>
戦っているのはアスリートだけではない。選手の陰には必ず裏方がいる。国際舞台での競技力向上を目的とし、2001年(平13)に開所されたのが国立スポーツ科学センター(JISS)だ。スポーツ医科学の支援事業など、さまざまな観点から選手をサポートする。どうすれば日本人はより世界で活躍できるのか。日本体育協会アスレチックトレーナー・理学療法士で「ランナーの体幹エクササイズ」(ランナーズ社)の著書を持つ高嶋直美氏にその取り組みなどを聞いた。
リハビリ、コンディショニングを担当する高嶋氏は、病院勤務を経て06年からJISSに入った。自らも女性ランナーという立場も生かし、選手たちをサポートする。まず故障した選手は、JISS内のクリニックで診療を受け、理学療法士のもとへ。そこで「動的アライメント(運動時による骨の配列の変化)」を評価し、正しい動きを習得させるのが狙いだという。
高嶋氏
動いている時に障害が起こりにくい動作になるとか、パフォーマンスが上がるような動作ができるようなエクササイズ。それを選手たちにやらせています。
過去の例を挙げると、09年3月に女子マラソンの尾崎好美が仙骨(骨盤の一部分)を疲労骨折し、やってきた。海外合宿での走り込みがたたり、寝返りを打つこともできないほどだった。そこで温泉治療を勧め、痛みが消えたところでリハビリへ。腹筋などの筋力不足を指摘した上で、体幹トレーニングを指導した。その結果が、同年の世界選手権での銀メダルだった。
高嶋氏
肩の高さなど全体を見るけど、骨盤が一番分かりやすい。例えば片足スクワットした場合、骨盤が下がったり、回ったり。それはお尻がうまく使えていない。
よくスポーツ選手がハムストリングス(太もも裏の筋肉)を痛めるが、これは「お尻の筋肉をうまく使えていない」(高嶋氏)のが理由だという。
高嶋氏
腹筋とともに、お尻は重要。着地もそうだし、地面を蹴るといった推進力は、お尻によるところが大きい。そこがしっかり使えていれば、競技力はアップします。あとは肩甲骨。胸を張って、しっかり腕を振ることができないと、足に伝わらない。
今回の世界選手権に出場する男子短距離の高平、棒高跳びの沢野らも指導を受けた。そして技術以上に、高嶋氏ら理学療法士が大事にしていることが、選手とのコミュニケーションである。そこに裏方の思いが見えてくる。
高嶋氏
気持ちが体に出る。気分が落ちていたら、下を向いてしまったり、姿勢となって出る。そういう意味でも、気持ちを前向きに上げるのが役目。地味なもので「地味トレ」と言われるのですが、それを楽しいと思わせられるか。
陸上とは体が成績に直結する競技だ。気持ちが下がれば姿勢も、競技力も落ち、逆に上がればパフォーマンスは高まる。胸を張り、前を向くこと。体とともに心のコンディショニングづくりこそ、求められる職務である。世界に挑むアスリートたちの心意気と姿勢は、そんな裏方たちの努力によるところも大きい。【佐藤隆志】
◆国立スポーツ科学センター(Japan
Institute
of
Sports
Sciences=JISS)。2001年(平13)10月開所。東京都北区西が丘に設置されたスポーツ科学、医学、情報研究の中枢機関で日本の競技力向上を支援するのが目的。故障した選手のリハビリ、コンディショニングを担当するスポーツ医科学研究部、選手の動き、バイオメカニズム(生物形態、運動情報)を分析するスポーツ科学研究部、さらにスポーツ診療事業などがある。