今年もゴルフ界最高峰の舞台、マスターズが4月7日から米国ジョージア州のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブで開幕する。昨年は松山英樹が日本選手としてはもちろん、アジア出身の選手として初めてマスターズを制した。首を痛めているのが心配だが、ディフェンディングチャンピオンとしてどのように戦うのか、日本のファンも心待ちしていることだろう。前年度のチャンピオンが開幕前にホスト役を務めるチャンピオンズディナーでどのような料理が振る舞われるのかなど、プレー以外でも楽しみな話題が多い。
そして、ここにきてタイガー・ウッズがマスターズに出場するというビッグニュースが入ってきた。出場の判断は当日するというが、実現すればウッズの公式戦復帰は2020年11月の「マスターズ」以来となる。2021年2月の自動車事故以降リハビリに励み、昨年12月に親子大会「PNC選手権」(ツアー外競技)に長男チャーリーくんと出場するなど、度々元気な姿を見せてはいたものの、本格復帰に向けては時間がかかることを示唆していた。1年2か月ぶりの復帰となることで、けがをした右足の状態が気になるところだが、マスターズでタイガーのプレーを見られるだけで満足するゴルフファンは多いかもしれない。
少し残念なのは、過去3回の優勝経験を持つフィル・ミケルソンの欠場だ。ミケルソンはグレッグ・ノーマンが主導する新リーグ構想を支持する発言をする一方で、PGAツアーを批判。その後、発言内容について謝罪し、休養する意向を表明していた。欠場はスキー中に骨折した1994年以来となる。またいつの日か心身ともにリフレッシュして、マスターズの舞台に戻ってきてほしい。
マスターズは1934年、ボビー・ジョーンズとクリフォード・ロバーツの発案で始まった。戦争による中断をはさんで、今年で86回目の開催となる。優勝者に贈られるのは、ゴルファーであれば誰もが憧れるグリーンジャケット。今回は米国ゴルフダイジェストトップ50コーチに選出されている著名なゴルフコーチ、アンドリュー・ライスの分析をもとに、誰がグリーンジャケットに袖を通すのかを考察してみたい。
優勝候補の中でも、何かと話題になるのはブライソン・デシャンボーだ。今年は2月初旬に行われたPIFサウジインターナショナルの初日に棄権して以降、股関節と手のケガによる欠場が続いていたが、3月下旬に行われたWGCデルテクノロジーズ・マッチプレーで復帰した。マッチプレーは3戦2敗1分けといいところがなかったが、メジャー制覇に向けて着々と準備を進めていることだろう。今年こそ圧倒的な飛距離でオーガスタの魔女を退治できるか注目だ。
ライスによると、デシャンボーは「常に他の選手よりも優位に立ちたいと考えるタイプ」なのだという。ルールの範囲内でできる限りのことをして、より良いパフォーマンスを発揮し、相手よりも優位に立とうと考える選手だという。そのような思考があるからこそ、ゴルフ界の常識にとらわれず肉体改造やスイング改造を行うという選択ができたのだろう。
「ブライソンはとても賢く、非常に意欲的にゴルフに取り組む選手です。彼はデータを大切にし、常に数値をチェックしてゴルフに取り組んでいます。彼は数値による分析から、良いスコアを出すためには飛距離を伸ばすことが合理的な選択であり、方向性を損なわずに飛距離を伸ばす方法を理解した上でスイング改造や肉体改造に取り組んできました。まっすぐ遠くに飛ぶドライバーショットという武器を手に入れたことでライバルたちよりも優位に立っています」
デシャンボーは飛距離に注目されがちだが、元々はショットの正確性がウリの選手で、パッティングも優れている。マスターズでは飛距離を武器に、常にパー5を2オンすることができれば優勝の可能性は十分あるだろう。
デシャンボーとは対照的に、飛距離よりも正確なアイアンショットを武器にマスターズで活躍が期待されるのが、25歳にして既にメジャー2勝を挙げている現在世界ランク3位のコリン・モリカワだ。ライスはモリカワのステディーなゴルフを高く評価している。
「ある人が『コリン・モリカワはきちんと丁寧にゴルフをしている』と言っていましたが、彼はゴルフを本来あるべき正しい方法でプレーしていると言えるでしょう。コリンの武器は優れたボールコントロールとアイアンの正確さですね。グリーンに向かって放たれたアイアンショットは常にピンに絡み、多くのバーディーチャンスを作り出します」
距離が短くグリーンの落としどころが限定されるマスターズでは、正確なショットを武器に優勝争いに絡んでくるに違いない。
そして、ライスが「完璧なプレーヤーだ」と評するのが、現在世界ランキング2位のジョン・ラームだ。
「彼はロングヒッターで、ボールを高いレベルでコントロールできる選手です」
ライスが語るように、今シーズンは平均飛距離315.8ヤード(7位)の飛距離に加え、ストローク・ゲインド・オフ・ザ・ティー(パー4とパー5のティーショットでツアー平均に対して何打貢献しているかの指標)で1位を記録するなど、飛んで曲がらないショットを武器としている。今年はセントリートーナメント・オブ・チャンピオンズの2位をはじめとして、4回のベストテンフィニッシュを記録し、マスターズを制する準備は万全だとライスは太鼓判を押す。
「彼は2021年の全米オープンでメジャーに初めて勝つことができたことで自信をつけましたね。大事な場面で自分の力を発揮できるようになったと思います。彼はメジャーで勝つために必要なツールを十分に持っています。自信さえ高まれば誰よりも優れたパフォーマンスを発揮するはずです」
スコッティ―・シェフラーに抜かれた世界ランク1位の座を奪還するためにも、マスターズ初制覇を実現したいところだ。
その他にも、直近5試合で3勝と勢いのあるシェフラー、第5のメジャー「ザ・プレーヤーズ選手権」を制したキャメロン・スミス、昨年の年間王者のパトリック・キャントレーなど、今年のマスターズは優勝候補がしのぎを削るフィールドとなる。どのようなドラマが繰り広げられるのか楽しみにしたい。
(ニッカンスポーツ・コム/吉田洋一郎の「日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)
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◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。2019年度ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。欧米のゴルフスイング理論に精通し、トーナメント解説、ゴルフ雑誌連載、書籍・コラム執筆などの活動を行う。欧米のゴルフ先進国にて、米PGAツアー選手を指導する100人以上のゴルフインストラクターから、心技体における最新理論を直接学び研究している。著書は合計12冊。書籍「驚異の反力打法」(ゴルフダイジェスト社)では地面反力の最新メソッドを紹介している。書籍の立ち読み機能をオフィシャルブログにて紹介中→ http://hiroichiro.com/blog/