早大が一般入試で入学した猪俣英希(4年)を、山登りの5区に抜てきした。11年1月2、3日に行われる第87回東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)の区間エントリーが29日、発表され、早大は当初5区に予定されていた佐々木寛文(2年)が座骨神経痛の影響で7区に回り、「一般の星」猪俣で打倒・柏原に挑む。
早大が3冠の夢を雑草魂に託した。佐々木は11月後半に座骨神経痛を発症し、様子を見ていたが、1週間前に、猪俣5区起用を渡辺康幸監督(37)は決断した。「(猪俣は)十分に爆発力もスタミナもあるし(佐々木と)同時進行で山の練習はしてきた」。八木を加えた山の候補3人で練習してきた層の厚さが役立った。
猪俣にとっては、最初で最後の箱根となる。卒業後は三菱商事へ入社が内定しているため、陸上人生も箱根が最後。「箱根は憧れ。走って貢献したい」と話していた夢が、最も過酷な山登りでかなう。それも、同郷・福島の後輩で、5区のスペシャリスト、柏原との一騎打ちとなる。
会津高時代は全くの無名だった。高校の先輩で、早大出身の北京五輪マラソン代表、佐藤敦之に憧れ、一般入試を受験した。受験勉強は陸上部の活動が終わった高3の11月から始めた。学校の送り迎えを両親に頼むなど時間を節約。図書館にこもり、短期集中型で見事に合格した。
しかし、競走部に入部当時は「持ちタイムは下から2番目ぐらい」。1年時は夏合宿にも参加できないレベルだった。加えてけがで「いつやめてもおかしくなかった」という。それが2年の夏合宿で徹底的に走り込み地力がついた。また「短距離の選手からもアドバイスをもらった。彼らは吐くほど追い込んでいる」。激しい練習で自分を追い込み、ついに夢をつかみ取った。
前回、八木が柏原と真っ向勝負を挑み、区間9位に沈んだ二の舞いだけは避けたい。渡辺監督も「柏原君に(区間で)4分離されてもしょうがない。3分なら御の字」と話す。猪俣の負担を軽くするためにも、4区までで「どのぐらい貯金できるかがカギ」。その貯金を、猪俣が死守することで、早大悲願の3冠が見えてくる。【吉松忠弘】