<世界柔道>◇26日◇男子90キロ級◇パリ・ベルシー体育館

 意地だった。最後に見せた小野卓志(31=了徳寺学園職)の意地だった。李奎遠(韓国)との3位決定戦。有効に続き、技ありまで奪われてリードを広げられた。残り時間は1分を切った。その状況で、小野は思っていた。「内股をずっとやってきたんだ。最後は思い切り入って行こう。かからなかったら、いいや」。ぐっと踏み込み、右足を跳ね上げた。主審の右手が真上に挙がった。一本。時計は残り33秒で止まった。

 「最後は無意識で、思い出せと言われても覚えていない。ただ主審が一本と宣告したときに、いろいろなことが頭の中をよぎって、涙が止まらなくなりました。優勝していないから、勝っても泣かないようにと思っていたんですけど」。

 31歳。両膝の靱帯(じんたい)はいつ切れてもおかしくないほど、満身創痍(そうい)。この大会の結果次第では引退するつもりで臨んでいた。準決勝で西山大希に指導1つの差で敗れ、年齢が一回り近く若いライバルを上回ることはできなかった。それでも、気持ちだけで戦った3決で、05年の世界選手権81キロ級でつかんだ銅メダルと、同じ色のメダルを手にした。

 「終わってみて、自分の気持ちはまだあきらめられない。もう1年、ロンドンを目指して、西山くんに勝って、代表になれるよう…もう少しだけオジサンは頑張りたいと思います」。その顔は、柔道が好きな少年のようだった。