<世界柔道>◇24日◇女子52キロ級◇パリ・ベルシー体育館

 女子52キロ級で世界ランク2位の中村美里(22=三井住友海上)が、2大会ぶりに女王の座を奪回した。日本勢対決となった同1位西田優香(25)との決勝は大接戦。相手の指導2度により優勢勝ちし、来年のロンドン五輪出場に前進した。男子73キロ級では初出場の中矢力(22)が、女子57キロ級でも07年銅メダルの佐藤愛子(27)が金メダルを獲得。この日は日本勢が3階級すべてを制し、今大会の金メダルは計5個となった。

 2年前と同じように、金メダルにも中村は笑わなかった。2大会連続となった西田との決勝。激しく組み手を争い、最初に指導を受けたが、少しずつペースを握った。残り2分34秒で西田に指導。同1分32秒にも西田の指導を誘い、有効ポイントを奪ってそのまま逃げ切り。紙一重の差で頂上対決を制した。昨年失った女王の座を、シニアで初めての国際大会を経験したパリで奪い返した。

 昨年の決勝は微妙な判定の末に敗れた。それでも普段から仲が良い2人は、ここパリでも一緒に出掛けた。テーピングを丸め、57キロ級の松本と3人でキャッチボールにも興じた。「昔、少年野球をやっていたので、キャッチボールが好き。あのグラブに『パンッ』と収まる音がいいんです。でも、所属ではみんなできない」。それができる仲間が、西田だった。「西田さんがもしいなかったら、もっと頑張ろうと思ったり、危機感とか刺激がなかった。ライバルがいることがすごく幸せ」。ライバルの存在が、中村をより強くたくましくした。宿敵を下して勢いに乗った。北京五輪準決勝で敗れたアン・グムエ(北朝鮮)と3回戦で対戦。延長の末に大外刈りで技あり。当時の銅メダルは寮の引き出しの中に閉まってある。「見えるところには置いてないけど、たまに見かける。見たときはあの悔しさを思い出す」。

 帯に「無限大」という文字を記して臨んだ今大会。理想の柔道も可能性も、どこまでも果てしない。そんな思いが込められていた。今年の前半は右手親指など細かいけがで苦しんだが、本番にはしっかり合わせた。

 iPod(アイポッド)には、音楽よりも「はんにゃ」や「トータルテンボス」などのお笑い動画が多く入っている。試合前に音楽は聴かず、人と話してリラックスした。「北京五輪で負けて、借りはロンドン五輪でしか返せない。まずは出なきゃいけない」。五輪で優勝した時に、会心の笑顔が見られるはずだ。

 ◆中村美里(なかむら・みさと)1989年(平元)4月28日、東京都八王子市生まれ。8歳で柔道を始める。渋谷教育渋谷高1年の05年11月の講道館杯48キロ級を制し同12月の福岡国際女子を谷亮子以来の16歳で制覇。07年10月に52キロ級に転向し北京五輪出場。銅メダルを獲得。09年世界選手権で金メダル。昨年の世界選手権は銀メダル。家族は両親と兄。157センチ。