短くて感動的なスピーチは難しいし、珍しい。久々に心が動かされた。19日(日本時間20日)、ドジャース-マリナーズ戦(ドジャースタジアム)の前に、マリナーズのジャスティン・ターナー内野手(39)がスピーチを行った。22年限りでドジャースを退団してから、2年ぶりにドジャースタジアムに帰ってきたからだ。

ドジャース時代のターナー(2022年7月15日撮影)
ドジャース時代のターナー(2022年7月15日撮影)

ターナーは、何も大金を求めて出て行ったわけじゃない。チームから契約延長オプションを行使されなかったから、レッドソックスに移った。今季は当初ブルージェイズに所属していたが、トレードでマリナーズに移籍していた。

ドジャースには14年から所属し、20年のワールドシリーズ優勝など、チームの中心選手として活躍した。久しぶりに戻って来た英雄に、ドジャースも粋な計らいをした。ホームレスとなった退役軍人、病気の子供たちらを支援する「ジャスティン・ターナー基金」に1万ドル(約150万円)を寄付し、コートニー夫人と息子ボー君と一緒にスピーチする機会を与えたのだ。

2024年8月19日、ドジャースとの試合前に表彰を受けているマリナーズのジャスティン・ターナー。隣には妻コートニーさんと幼い息子ボー君の姿があった(AP)
2024年8月19日、ドジャースとの試合前に表彰を受けているマリナーズのジャスティン・ターナー。隣には妻コートニーさんと幼い息子ボー君の姿があった(AP)

前置きが長くなったが、ターナーの50秒間の感動スピーチは次の通り。

ワッツアップLA(「調子はどう」のくだけた言い方。どうだいLA)? 僕は長広舌で悪名高いんだけど、できるだけ短くしゃべってみるよ。

心から言う。コートニー、ボー、みんな、僕の人生で最も素晴らしい9年間をありがとう。

上から下まで、オーナー、フロント、スタッフ、選手たち、みんなのおかげで最もスペシャルな時間を過ごせた。感謝してもしきれないよ。

この(ドジャースの)ユニホームやドジャースのファンは、僕にとって世界のすべてだった。みんな(ドジャースファン)は、本当にアメージングで、ずっと僕の心の中にいる。ありがとう。

2024年8月19日、ドジャースとの試合前に表彰を受け、観衆に手を振るマリナーズのジャスティン・ターナー(AP)
2024年8月19日、ドジャースとの試合前に表彰を受け、観衆に手を振るマリナーズのジャスティン・ターナー(AP)

ユニホームの胸ボタンを上から1つ開け、もじゃもじゃひげを生やしているので、強面(こわもて)でぶっきらぼうな感じに見えるのだが、そこがまた、スピーチと裏腹に見えて格好いい。本当に、ドジャースに残りたかったんだ、という姿に見えた。

AP通信によると、ロバーツ監督は「私の9年間の中で、これほどファンに愛された選手はいなかったと思う。ファンたちは彼と本当に強く結びついていた」と話し、ターナーを将来のドジャースの監督候補に挙げている。「彼はおそらく私が今まで会った中で最も賢い選手だ。フィールド内外の試合のすべての側面、プロのアスリートとしての責任を理解している。監督の仕事は彼の視野に入っていると思う」。ターナーは引退後、ドジャースで働くことを希望しているという。

金の切れ目が縁の切れ目になりがちなメジャーリーグだけれど、ファンと選手のいい関係が垣間見られた。

【斎藤直樹】

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「斎藤直樹のメジャーよもやま話」)