ドジャース大谷翔平投手(30)が、悲願のワールドシリーズ(WS)優勝を果たした。大リーグ研究家の福島良一氏が、けがを乗り越えた選手が活躍してきた、ドジャースとWSの歴史をひもといた。

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大谷、フリーマンと主軸のけがを乗り越えたドジャースが、ヤンキースを4勝1敗で下し、世界一となりました。かつてニューヨークのブルックリンに本拠地があり、通称「サブウェーシリーズ」と呼ばれた伝統の頂上対決を制覇。短縮シーズンだった20年を除くと、36年ぶりの世界一となりました。その時のヒーローは、左の強打者カーク・ギブソンでした。

1988年2月、タイガースからFAでドジャースに移籍。打率2割9分、25本塁打、76打点ながら強烈なリーダーシップを発揮し、地区優勝に貢献。ナ・リーグMVPに輝きました。しかし、プレーオフで盗塁した際に左太もも裏を痛め、走塁で右膝を負傷。WS出場が危ぶまれました。

それでも、本拠地ドジャースタジアムでの第1戦。9回2死一塁、アスレチックスに3-4とリードされた場面で、代打ギブソンが告げられました。闘争心旺盛なギブソンはトレーナー室から打席に向かいました。満足にバットが振れる状態でなく、抑えの切り札デニス・エカーズリーにカウント0-2と追い込まれましたが、フルカウントまで粘りました。

走者が二塁に進んで迎えた、8球目。決め球スライダーが外角に決まったかに見えましたが、左足が踏ん張れず、むしろ外角の変化球しか対応できないギブソンが、まるで片足打ちのようなスイングからボールをバットの芯で捉えました。打球はライトスタンドへ。史上初の代打逆転サヨナラホームラン。足を引きずりながらベースを1周し、ガッツポーズを繰り返しました。

結局、彼にとって唯一の打席となりましたが、その1発が大きな要因となり、チームは世界一に輝きました。また、84年公開の米野球映画「ナチュラル」で俳優ロバート・レッドフォード演じるロイ・ホッブスが特大本塁打を放った名場面とオーバーラップ。歴史に残る、劇的なラストシーンとなりました。

今年の第1戦。ドジャースのフレディ・フリーマンが右足首捻挫を押して出場し、延長10回にWS史上初の逆転サヨナラ満塁本塁打。ギブソンの伝説を再現しました。4試合連続本塁打などの活躍でMVPを獲得。新たな伝説を作りました。

大谷翔平投手もフリーマンの闘志あふれるプレーに刺激されたかのように、第2戦で左肩を亜脱臼しながらも強行出場を続けました。第3戦は初回、四球で出塁し、フリーマンの先制2ランを呼び込むなど存在感を大いに発揮。結局、全試合出場で士気を鼓舞し、悲願の世界一となりました。

思えば、20年にドジャースが世界一になった時は、プレーオフでコディ・ベリンジャー(カブス)が右肩を脱臼。それでもWSに出場し、チームの世界一に貢献しました。故障に負けない活躍は、ギブソンから受け継がれる「ドジャース魂」と言えるでしょう。【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)