草笛光子さん(91)が文化功労者に選ばれました。草笛さんが出演する舞台などを長い間見てきた者としては、もっと早く選ばれても良かったのではという思いがあります。
草笛さんは1950年にSKD(松竹歌劇団)に入団。53年に映画「純潔革命」に出演以来、70年にわたり女優として活躍し、今年も映画「九十歳。何がめでたい」に主演しています。文化功労者に選ばれた時に書面で「あまり昔を振り返ることはしませんが、ちょっと後ろを向いたら、まあまあ長い時間、舞台、ミュージカル、映画、テレビドラマなど幅広い分野でいろいろな作品を作ってまいりました」とコメントを寄せました。
草笛さんの舞台を初めて見たのは80年「女たちの忠臣蔵」。その後はミュージカル「ジプシー」「シカゴ」「グレイ・ガーデンズ」、一人芝居「私はシャーリー・ヴァレンタイン」、三谷幸喜演出「ロスト・イン・ヨンカーズ」、華麗なダンスで魅せた「6週間のダンスレッスン」を見ていますが、ちょっと残念なのは69年「ラ・マンチャの男」初演で演じたアルドンザを見ていないことです。ブロードウェーで見て、絶対やりたいと熱望して実現しただけに、草笛さんいわく「命がけで挑んだ」舞台でした。しかし、何度目かの再演で、アルドンザ役はほかの女優に代わり、悔しくて、心の中で「こんちくしょう、こんちくしょう」と叫んだそうです。数年後、皮肉にも「シカゴ」の共演者が、草笛さんに代わってアルドンザを演じた女優でした。顔を合わせて稽古する毎日は「苦しみそのもの」だったそうです。でも、ある演出家の「自分が楽しくないと、観客に楽しさが伝わらない」との助言に、いい舞台にすることにエネルギーを注いだ結果、「シカゴ」は芸術祭最優秀賞を受賞しました。
「こんちくしょう」という言葉にはマイナスのイメージがあるけれど、草笛さんは「こんちくしょう」という気持ちをバネに、幾多の苦しみや悲しみを乗り越えてきました。91歳の現在まで、何百回、何千回も「こんちくしょう」と言ったことでしょう。これからも「こんちくしょう」精神で、私たちを楽しませてほしいと思います。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)