配信ドラマ「極悪女王」がおもしろい。Netflixといえば「地面師たち」がまだまだ話題だが、続けて傑作が生まれたといってもいいだろう。舞台は1980年代、悪役レスラーとして人気のあったダンプ松本の自伝であり、その彼女を中心に当時の女子プロレスの世界も描く。同じくNetflixの「全裸監督」もだったが、80年代の質感や臨場感がうまく映像化されている。
主演のダンプ松本役は、芸人のゆりやんレトリィバァ。女優として活動している姿をみたことがなく、発表された時は?と思った。芸人さんが俳優をやるとうまくいくケースもあるが、どこかコント風になってしまうこともあり、いきなり主演でどうなんだろうと興味深かったが、今のところ感心するほどうまい。声のトーンを変えているのか、芸人のゆりやん感は感じず、また表情などもよく研究されており、一気に人気俳優の仲間入りを果たすのではないかと思う。
そしてライバルとなるタッグコンビ(クラッシュギャルズ)を、唐田えりかと剛力彩芽が演じる。スキャンダルや大手事務所を退所と、勢いのあるときに比べると表舞台から少し離れている印象だが、2人ともいい。さすがに線の細さは否めないが、安定した演技に加え、現環境とオーバーラップするのかのごとく必死に食らいつくその表情がまたいい。大人たちの思惑に翻弄(ほんろう)される若者たちの姿も描かれており、青春群像劇としてもとても見応えがある。
さてそこで今回紹介するのは長与千種(クラッシュギャルズ)を演じる唐田えりか。最初に見たのは映画「寝ても覚めても」、透明感のある存在で、映画もヒットし新人女優賞も獲得。今後の芸能界を背負っていくと思っていたところ、前述した通りスキャンダルに見舞われる。その後、映画を中心に出演するも、思い描いた俳優像から比べると地味な印象が否めない中での本作への出演。全ての鬱憤(うっぷん)を晴らすかのようにリング上を所狭しと動くその姿はなんとも頼もしい。またレスラーとして一大ブームを作りだした彼女たちの“華”の部分もうまく表現されており、トータルで納得の演技である。こんなに多彩な表情ができる俳優さんだったのかと驚いている。ある意味、2カウントからの逆転劇、今後の活躍に期待です。
◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて南青山でカレー&バーも経営している。最近では映画「その恋、自販機で買えますか?」「映画 政見放送」、10月18日には映画「追想ジャーニー リエナクト」が公開予定。
(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)