今回の「ケイバラプソディー ~楽しい競馬~」は下村琴葉(ことは)記者が、21年北九州記念を制したヨカヨカや23、24年に中山GJを連覇したイロゴトシを生産した熊本の本田土寿さん(63)を取材した。
九州産馬の発展のため、熊本空港の近くにある本場に加え、22年には阿蘇山のふもとに分場を開いた。絶えない情熱はいずこから。熱い胸の内をたずねた。
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今月4日、ダート競馬の祭典JBCが佐賀競馬場で行われた。小さな競馬場に1万2789人が来場。熱気に包まれた1日に、現地にいた生産者・本田土寿さんの心も熱く燃えた。「目の前で見て考えが変わった。オーナーとか生産者と話して、ダートの地方(競馬)に特化した配合を考えなくちゃと。刺激を受けるよね」。63歳になっても好奇心、向上心はやまない。
行動力の原点には、21年に熊本産馬で初めてJRA重賞を勝利した生産馬ヨカヨカの存在がある。「またああいう子を育てたい。あの子たちができなかったことを、次の馬でかなえたい」。22年には阿蘇山の東側に高森ヒルズを開場。購入した山を本田さん自身が重機で開拓し、厩舎も全て手作りだ。標高は830メートル、夏場は熊本市内の本場より8度ほど涼しい。
デビュー前の育成馬は傾斜のついた放牧地へ夜間放牧に出す。無口(頭絡の一種)にGPSをつけて運動量の計測も行っている。「体の締まりとか筋肉量が違う。丈夫な馬も作りたいけんね」。標高が高い上、自然の坂路で基礎体力がつく。「北海道みたいにしたくてたまらん」。今後も放牧地を広げていく予定だ。
常に前向きに挑戦を続ける本田さんも1度は苦境に立たされた。01年に大分の中津競馬場が、11年には熊本の荒尾競馬場が閉場した。九州の地方競馬は佐賀だけが残った。
「馬主さんが去って行く気がした。うちにも休養にくる馬もおったし。競馬の火が消えてもおかしくなかった。でも、どん底ば見た関係者が努力した結果が、JBCの佐賀開催という形で表れた。一生懸命やる人にいいことがある。何の仕事でも同じやけんね」
夏のJRA小倉開催の減少にも危機感を抱く。来年度は小倉2歳Sが消滅。以前は8週あった開催も4週に減った。今夏の開催では九州産馬の未勝利戦で全頭が連闘というレースもあった。「夏コクは九州の風物詩。町も盛り上がる。開催週もどうにか延ばしてほしい。馬のためにも。生産者としてアピールしていきたい」と思いを語る。
馬に人生をささげる理由は馬への愛、ただひとつだ。「馬と一緒にいるのが心地よか」。本田さんの努力はいずれ結果となって表れるだろう。火の国・熊本から誕生する名馬を心待ちにしたい。(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー~楽しい競馬~」)