おかげさまで9月1日から珠洲ホースパークの見学受け入れを再開できることになりました。1月1日の地震から8カ月ぶりの再オープンです。近くにも仮設住宅がありますが、やはり気持ちがスッキリしない時もあると思いますし、子供たちをはじめ地元の方々にも来ていただいて、馬をのんびり眺めたりしてリフレッシュできる場になればと思います。
この8カ月の間に、グルーヴィット、ベレヌス、バーデンヴァイラーの重賞勝ち馬3頭が加わり、現在のホースパークには計8頭が暮らしています。新しく来た馬たちには、心身ともに環境の変化へ順応するプロセスが必要になります。
肉体面ではまず調教で鍛えられた速筋(瞬発力に必要な筋肉)がガタッと落ちます。そして蹄鉄を外して“はだし”で過ごすので、ザ石を起こしては治るの繰り返しでツメが硬くなるのを待たなければなりません。さらに夏や冬には皮膚炎を起こしやすくなりますが、こちらもだんだん皮膚が強くなってきます。
体がすべて順応するまでは1年半ほど必要で、その間はどうしても見栄えが悪くなってしまいます。現役時代の立派な姿をご存じのファンの方は驚かれるかもしれませんが、ご理解いただければありがたいです。
精神面では、いかにグループになじめるかが重要です。現役の競走馬は、けがをしないように集団で放されることはありませんが、もともと馬は群れで暮らす動物です。そこにはリーダーがいて、外敵から守る役割を持っています。
新しいメンバーが入ると、順列を決める戦いが始まります。順番が決まれば、グループが安定して、人間への攻撃性もなくなってきます。ただ、順番争いは常に続いていて、体調を崩すと入れ替わったりします。リーダーは強くなければならないからでしょう。
かつて藤沢和雄先生は「馬は馬から教わる」とおっしゃっていました。私も調教師時代には強い馬をリードホースにして、若い馬たちを教えてもらっていました。集団調教で7~8頭の隊列を組む時には、相性を考えたり、先頭向きの性格の馬を選んだりしました。
それが人間の手を離れて馬だけでフリーの状態になると、必ずしもこちらのイメージ通りにはなりません。ホースパークでも「やっぱり賞金を稼いだ走る馬が強いのかな」と予想していましたが、今の8頭では重賞を勝っていないカウディーリョがトップにいます。
馬の集団生活を見ていると、調教師時代には知らなかった新しい発見がたくさんあり興味深いです。ホースパークへお越しの際には、そのあたりにも注目していただければ面白いのではないでしょうか。
◆牧場見学の申し込み 事前予約制で「みんなの馬」公式サイト(www.minnano-uma.com)にて受け付けている。入場料は500円。小学生以下や珠洲市民は無料。