6月、南アフリカ戦の前半にドリブルで攻め込む室屋(撮影・江口和貴)
6月、南アフリカ戦の前半にドリブルで攻め込む室屋(撮影・江口和貴)

<手倉森JAPANリオで金託された18人(8)>

 「東京に来てくれたら助かるんやけどな…」

 東京DF室屋成(22)が明大入学後、初めて迎えた夏前だった。大学では1年生ながらレギュラーに抜てき。さらに世代別日本代表にも招集され、合間をぬって遠征に参加した。大学選抜にも選ばれ多忙を極め、寮生活では体のケアがし切れない。室屋からのSOSに、大阪にいた母律子さん(51)は仕事を辞めて明大近くに部屋を探し、その年の年末から親子2人での生活が始まった。

 「サッカーに集中できるよう、主人と話し合って決めました。明大でもしっかりやっていただけていましたが、あの頃は忙しすぎて頭がパンパンの状態。その時からリオ五輪へいくことを目標にやっていました」。大学の単位もしっかり取得し、3年時にはJ1東京の特別指定選手にもなった。日本一忙しい大学生サッカー選手は、母から生活面でサポートを受けた。

 ボールを蹴り始めたころから見守られてきた。まだ幼稚園に入る前、3歳年上の兄の練習についていくと、同い年の兄を持つFW南野がいた。おぼつかない足でボールを蹴る2人。小学校では同じゼッセル熊取に入団すると、兄たちに勝負を挑み続けた。「(南野)拓実は泣きながら、成は黙々と向かっていきました」。

 幼なじみが2人そろってリオ行きが見えてきた今年2月、左第5中足骨骨折に見舞われた。誰よりも五輪への強い気持ちを知っているから、家で母は何も聞かなかった。今月1日。代表発表直前、メンバー入りを聞いた室屋が最初に電話をかけたのは母。「1番に連絡をくれたことがあの子なりの感謝の気持ちなんやと思います」。【栗田成芳】

 ◆室屋成(むろや・せい)1994年(平6)4月5日、大阪府熊取町生まれ。中学時代はボランチ、青森山田高でサイドバックに転向。全国高校選手権は3年連続16強。明大進学後は1年時から全日本大学選抜で、3年時の15年は特別指定選手として東京に登録。今季現役大学生でプロ入り。174センチ、65キロ。血液型A。