<三須記者がリオで見る:カーニバルの光と影>

 【リオデジャネイロ3日(日本時間4日)=三須一紀】南米初となる4年に1度の祭典、リオデジャネイロ五輪が5日(同6日)に、いよいよ開幕する。現地は五輪ムード一色かと思われたが、意外にも街のテンションは低い。お祭りムードは会場周辺だけで、明日の生活さえ不透明な市民の表情からは、五輪を素直に喜べない様子がうかがえる。会場近くのファベーラ(貧民街)住民の冷めた目、聖火リレーと衝突したデモ隊など、リオ市民の五輪に対する実情が見えてきた。

 ビーチバレー会場、五輪モニュメント、巨大な公式グッズ店などが立ち並ぶ、世界的な観光地「コパカバーナビーチ」。そこから1キロも離れていない裏山に、いくつかのファベーラが連なっている。

 「光と影」。そのコントラストがはっきりと浮かび上がる場所だ。ファベーラの細くて急な階段を上る。急斜面に、レンガとセメントで固めた家々が所狭しと乱立。つい10分前に見た、コパカバーナの華やかな記憶が一気に消え去った。

 上の方に到着すると、引っ越し作業のため、4人で冷蔵庫を担ぐ男たちがいた。休憩中に間もなく始まる五輪について質問すると、冷めた答えが返ってきた。

 州学校の警備員を務めるセバスチャン・ヒカルドさん(52)は「5カ月間給料をもらっていない。応援する元気もない。ご飯も食べられない人が大勢いる。学校に給料の支払いを求めて行っても帰りのバス賃、2レアル (約65円)がないと泣いていた、おばさんもいた」と語った。眼下に見える巨大なビーチバレー会場に「異常だ」と突き放した。

 アパートの管理人として働くマルセロ・フェエラさん(42)の月給は約1400レアル (約4万5000円)。日用品の物価は日本とさほど変わらないため苦しい。「スポーツは好きだが、あそこには行けない。あれはツーリストのもの」と割り切って見ている。

 ファベーラはリオに約1000カ所あるといわれ、同市の人口約630万人のうち、約140万人が住んでいるという。2割強を占める貧民は、平和の祭典からまるで排除されている。4月に取材した際、高速道路の半透明のフェンス越しに見えていたファベーラを、フェンスに絵を描くことで隠している場所もあった。

 ファベーラだけではない。3日、リオ市の北に隣接するドゥケ・デ・カシーアス市を通過する聖火リレー隊と、五輪に反対する教師団のデモ隊が衝突。警官隊が催涙弾を投げ、ゴム弾を発砲した。

 近隣住民らによると、教師団は教育や医療関係者に給料が支払われない中、五輪を開催することに猛抗議。横断幕を掲げ、聖火リレーの通行を妨げようとしたという。それに気付き、聖火リレー走者は伴走車に避難。その後、警官隊が制圧にかかった。イーグル・シルバ・デ・パウラさん(35=仲買業)は「我々は聖火はいらない。給料がほしい」。五輪パークにいる各国の選手たちは、この実情を知らない。

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 華やかなスポーツの祭典が開催されるリオの街に文化社会部の三須一紀記者が入りました。期間中、競技場を離れた街の声、生活の息遣いをお伝えします。

 ◆三須一紀(みす・かずき)04年入社。東北総局(仙台)勤務時代の11年に東日本大震災を取材。文化社会部では、事件、自然災害、東京五輪問題など幅広く取材。35歳。