ブラジル人の中に交じってカポエイラを行う細谷洋子さん(手前右)(撮影・三須一紀)
ブラジル人の中に交じってカポエイラを行う細谷洋子さん(手前右)(撮影・三須一紀)

<三須記者がリオで見る:カーニバルの光と影>

 【リオデジャネイロ18日(日本時間19日)=三須一紀】「リオでがんばる日本人」第3弾はブラジルの伝統武術「カポエイラ」の伝承活動をしている細谷洋子さん(37)。「カポエイラ界のペレ」と評される師匠に弟子入り。徳島県にある四国大の講師を務めながらリオとを行き来し、研究を続けている。

 薄暗い体育館の地下。裸電球の下、20人ほどが直径約3メートルの円をつくり、太鼓と歌声で軽快なリズムを奏でる。その円の中で2人が「非接触」の格闘技を繰り広げる。打撃はないが、激しい。逆立ちから繰り出す強い蹴りを、あえて当てない技術は目を見張るものがあった。

 筋骨隆々のブラジル人の中に、小柄な日本人女性がいた。円陣の中から好きなタイミングで試合に入れる。細谷さんは果敢に屈強な男性に挑んだ。Tシャツがめくれあがり背中があらわになる。逆立ちから蹴りを振り下ろす。162センチの体が躍動し、大きく見えた。

 日本ではなじみのないスポーツで、競技人口はわずか1500~2000人という。なぜカポエイラなのか。「大学卒業の1カ月前、02年2月9日に巣鴨で初めて見ました。これだ! って思った。日付まで覚えてます」と笑った。

 幼い頃からクラシックバレエ、新体操、器械体操を経験し、お茶の水女子大では舞踊教育学を専攻したこともあり、格闘技と舞踊と音楽が交ざり合った魅惑の武術にのめり込んだ。

 以来、長いときは年2カ月、15年6月から16年3月までは連続10カ月、リオに滞在し「カポエイラ界のペレ」に指導を仰いだ。日本人女性が単身、学びにやって来ることに師匠のジョゼ・タデウ・カルネロ・カルドーソさん(60)は「カポエイラはブラジル人だけのものではない。格闘、音楽、体操といろんな要素があり、人間性の調和に役立つ。広めてくれることは重要だ」と喜んだ。

 現在は四国大生活科学部児童学科で講師を務める。「スポーツ人類学」というジャンルで学生にカポエイラも教える。師匠のグループ「アバダ・カポエイラ」の徳島支部も開設し、生徒は16人。「まだまだ増やしていきたい」と、サッカーJ2徳島の試合がある日、スタジアムの外で演舞するなどして、PRにも力を入れている。

 「1人ではなく、みんなでコミュニケーションを取りながらやれる。運動量が多くて痩せる。楽器や歌もあって異文化としての魅力もあります」。語るその目は、きゃしゃな私服姿とは一線を画し、演舞中のように光っていた。

 ◆細谷洋子(ほそたに・ようこ)1979年(昭54)2月28日、香川県生まれ。丸亀高、お茶の水女子大、早大大学院を経て現在、四国大講師。家族は両親、弟。162センチ、血液型O。

 ◆カポエイラ 16世紀頃にブラジルの奴隷制時代に発達した舞踊格闘技。ブラジルに連れて来られた奴隷の故郷アンゴラなど西アフリカ諸国の格闘技が起源との説もある。大農場主は奴隷同士のケンカを禁じ、けんか両成敗で厳しく処罰。奴隷たちは、農場主にケンカだと悟られないように、弓状の楽器「ビリンバウ」などを鳴らし、ダンスや儀式を行っているように偽装した。農場主からの理不尽な暴力から身を守る護身術をダンスなどでカムフラージュしたという説もある。手は使ってはならず、足、頭だけで、1対1で戦う。