五輪の都道府県別個人種目メダル数
五輪の都道府県別個人種目メダル数

 日本は初出場した1912年ストックホルム大会から12年ロンドン大会まで、個人種目で355個のメダルを獲得した。出生地別に見ると最多は東京都と大阪府の28個。福井、長野、沖縄の3県は1個も獲得していない。県民性がメダル獲得に与える影響はあるのか? ナンバーワン戦略研究所(東京・中野区)の矢野新一所長(67)に話を聞いた。歴史や風土が育んできた県民性が、活躍の要素の1つとなっているようだ。

 ◆「なんくるないさー」沖縄県

 今大会の男子重量挙げでは糸数が4位と健闘したが表彰台には届かなかった。メダルゼロについて「南国気質ですから、粘り強さがない。“なんくるないさー(何とかなるさ)”の精神が、しょうがないにつながっている」と指摘した。「持久力が大事な競技よりも、具志堅に代表されるボクシングのような瞬発系の方がメダルを狙える」と分析し、糸数の東京五輪でのメダル獲得に期待した。

 ◆負けず嫌い 福井県

 「なんで今までいなかったのか」と首をかしげる。「越前商人が有名で負けず嫌いな県民性。最も多く社長を輩出する県。15年の全国体力テストで小5、中2の男女ですべて1位ですから」と納得がいかない様子だが「商売で稼ぐように教育されているからではないか」と指摘。「貯金額は多いから、成功者が現れたら親が子どもをスポーツマンにさせるかもしれない。10年後にはメダル獲得数1位になっているかも」と予想。女子バドミントン山口のメダル獲得に期待した。

 ◆寺子屋数1番 長野県

 矢野氏は、教育熱心がゆえの低空飛行とみている。「江戸時代、信濃の国は寺子屋が一番多かった。明治時代も就学率が全国一。土地が狭いから親の跡を継ぐより、勉強して昇進するのが望ましいと言われてきた。だから、子供をスポーツ選手に育てていこうとする親があまりいない」。勉強優先の教育方針が影響していると指摘する。

 今大会で県出身初のメダリストとなる可能性が高いのが、大町市出生のバドミントン女子シングルスの奥原だ。父圭永(きよなが)さんが高校教師、母秀子さんは栄養士という教育熱心な家庭に育った。兄大生さんは医学生、姉未来さんは教師志望。幼いころからバドミントン以外に、水泳、ピアノ、スキーを習っていた奥原は数学が得意で、大宮東(埼玉)時代は海外遠征しながらも学年上位をキープしていた。

 矢野氏は「バドミントンなど、粘り強さが肝心な競技は長野県民に向いている」と言う。2度の膝のケガを乗り越え、持ち前の粘り強いフットワークが武器の奥原は「メダルが期待できる」と後押しした。

 ◆急成長中 埼玉県

 人口は700万以上だが、04年アテネ大会までメダル獲得はなく、08年北京大会でシンクロデュエットの鈴木が初めて銅メダルを獲得した。男子は今大会の競泳男子の瀬戸が初。「競争に弱い。社長や官僚が出てこない地域」と言い、男子の低調は人の良さがあだとなっているという。重量挙げの三宅ら女子の活躍が目立つのは「バブル時代にディスコで踊っていたのは埼玉か千葉の女性が多い。東京に追い付きたい気持ちが活躍につながった」とみる。

 ◆5位タイ愛知県

 「ケチな県民性」と関係があるという。「尾張商人と藩の影響が強い。尾張藩は豊かだったが、殿様から『無駄なお金使うな』と言われていた。商人も出費を控える。その考えから、30年ほど前まであまりお酒を飲まなかった」。シビアな金銭感覚がメダルへの執着を増すとし「メダルを取ったら良い生活ができると計算している」。今大会は豊田市出生の羽根田がカヌー日本勢初のメダリストとなった。

 ◆「金」最多9 北海道

 金メダル獲得数9個は福岡と並び最多タイ。その内訳はレスリングが5個、柔道が3個、陸上が1個。そのうち7個は、柔道女子の恵本、上野ら旭川市周辺の内陸出身者が獲得している。男子6個、女子3個の比率について「内陸は開拓期から男女同権。性別関係なく働いたことが影響した」と分析。「開拓者精神がある内陸出身者にはスポーツも商売も大物が出る」と話していた。【秋吉裕介】

 ◆矢野新一(やの・しんいち)1949年(昭24)3月5日、東京都生まれ。専大経営学部卒業後、市場調査会社などを経て85年に独立。男性に「新しいモノ好きでプライドが高い」との特徴があるという横浜市出身。