世界各国と比べ、日本野球が一番優れている能力といえば「機動力」になるだろう。国際大会ではボークの規定が緩く、あまり機動力に頼りすぎると、けん制で刺されたり、思うように走れずに「焦り」につながることがある。今大会で注目していたのは、次回のWBCでメンバー入りが期待されている選手の「盗塁能力」だった。

今大会でスタメン出場が多い選手の中で、機動力を武器にするNO・1選手といえば、今シーズンで20盗塁した辰己だろう。守備範囲も広く、バッティングでもパンチ力がある。井端監督が「3番・センター」で起用し続けているように、次回のWBCでも代表選手候補になることは間違いないだろう。

そんな辰己に絶好の盗塁チャンスが訪れた。1点をリードした4回2死一塁、栗原の打席だった。1アウト前の森下の打席で、投手のベレトのクイックモーションは1・30秒前後。辰己のスピードがあれば、十分に盗塁を決められる状況だった。

初球に走った辰己だが、間一髪でアウト。キャッチャーの送球が走路に流れ、ベストなタイミングでアウトになってしまっただけに不運な面もあった。ただし、この時の投手のクイックモーションは1・32。辰己の走力からすれば、セーフになる可能性が高かったはず。不運な面があるとはいえ、なぜアウトになったのかが、今後の課題になる。

ボークの規定が緩く、左投手はけん制球の時に足を真っすぐに出さない。これに引っかかって日本人選手はけん制死することが多い。辰己も日本ではボークになるけん制球をケアするあまり、スタートがワンテンポ遅れたのだろう。

しかし、この場面は、走ってアウトになってもいい状況でもあった。それならばけん制球でアウトになる可能性があっても、いちかばちかで投手が動き出したタイミングでスタートを切ることが大事になる。そのタイミングで走っていれば、楽々とセーフになった。

辰己の今シーズンの盗塁は20で、失敗は2回だけ。成功率は高いが、裏を返すと手堅く盗塁するタイプなのだろう。成功率が高いのは素晴らしいことだが、言い換えると相手バッテリーが最大限で警戒するような「いちかばちか」のスタートは切っていないのだと思う。これだとボーク規定が甘く、強肩捕手が多い国際大会だと走っていい場面で走れなくなる。けん制球に気を使いすぎて手堅くスタートを切れば、今試合のようにアウトになる。

次回のWBCは無走者で15秒以内、走者有りで18秒以内、けん制球は3回までというメジャーのピッチクロックが導入されると思う。走りやすい環境になるだけに、辰己のような走力のある選手は「手堅いスタート」と「いちかばちかのスタート」を使い分けられるようになってほしい。(日刊スポーツ評論家)