勝ち負けに関係なく、翌日の決勝戦への進出が決まっている両チームの対戦。国際大会での連勝記録(今試合まで26)があるとはいえ、この試合は勝敗よりも大事なことがある。ひとつは同じチームとの連戦になるだけに、どうやってアドバンテージを作るのか。もうひとつは、次回のWBCに向けての準備だ。ここまで出ていない選手の状態の見極めや疲れている選手の休養。そして国際大会での「向き不向き」を見分ける作業になると思っていた。
先発した早川のピッチングには不満だった。初回、先頭打者の陳晨威は左打者。早川といえば、左打者のインコースに投げるのを苦手にしているイメージがある。しかし2球目に投げた内角の真っすぐは見事に制球されており、空振りを奪った。この調子で内角を攻めていければ早川自身のレベルアップにつながるし、決勝に向けて台湾の打者に内角への意識付けができる。しかし、そういうピッチングができていたのは初回だけだった。
右打者に投げる内角も甘く、レベルが高い打者ならば打ち込まれる可能性があった。そして、一番ダメだったのはピッチクロックへの対応だ。3回2死からの初球を投げる前にタイムオーバー。これでリズムを崩してストレートの四球を出し、タイムリーまで浴びてしまった。
4回からピッチクロックを意識したのか、テンポを速くしていた。しかし、もともと投球テンポが遅いタイプ。そう簡単にはいかない。5回は先頭打者から連続四球を与えてタイムリー。その後も連続四球で押し出し。無死満塁で降板した。
今大会のピッチクロックのルールは、無走者で20秒、走者有りでは無制限で、けん制球の制限もない。メジャーは走者なしで15秒、走者有りで18秒。けん制球も3球で刺せなければ走者の進塁が認められる。どういう経緯で今大会のルールが決まったか分からないが、メジャーとはまったくの“別物”といっていい。
26年のWBCでは、メジャー式のピッチクロックが導入される可能性が高い。ならば、今大会でも選手たちはメジャーのルールに合わせるべきだった。勝敗が関係ないならベンチでタイムを計り、実践させてもよかったぐらいだ。日本のプロ野球では来年もピッチクロックを導入しそうもないが、WBCに勝つためには「慣れ」が必要。走者なしだけで20秒ならほとんどの投手は気にならない。しかしメジャーのピッチクロックになると話は違う。それこそ重要な場面ではリズムが狂うし、本番でのケガの可能性は絶対に大きくなる。
選手の立場からいえば、導入したくないルール。しかしメジャー志向のある選手やWBCに出場する選手は必要。ただでさえ日本の一流選手はメジャーに流出しているし、WBCで勝つことが日本の野球レベルの高さを証明するチャンスになる。NPBはピッチクロックの導入を検討するべき。改めて考えさせられる試合になった。(日刊スポーツ評論家)