誰も取材に来ないので、自問自答で先日開催が発表された「FIGHT CLUB2」についてインタビュー形式で語ってみたい。
先日YA-MANより同大会の開催発表があった。メインカードはYA-MAN-木村ミノル。ドーピング問題で揺れる格闘界。その中でこのカードの発表は大きな注目を集めた。
きっと賛否はあるが、正直どうなるんだろうかという感情が先行して賛否を超えた勝負論が渦巻いている気がする。その中でYA-MANがRISEの選手に出場してもらいたいと公言してくれた!これは僕にとって非常に大きい。自分の中では、俺を出さずに「FIGHT CLUB2」が成立するわけない!と勝手に思っている(笑い)。
ここから自分で自分にインタビュー企画を始める。
-安彦さんの「FIGHT CLUB2」への想いが強い理由はなんですか?
安彦 僕のプロデビュー戦は2021年2月でした。そのデビュー戦となった大会こそがこの「FIGHT CLUB」の旗揚げとなる大会だったのです。当時44歳。キックボクシング歴は1年。初めてのプロのリングでオープンフィンガーグローブでの試合。会場は新宿FACE。あの時の緊張感や匂いや興奮は今でも鮮明に思い出せます。新宿FACEは会場も小さいが、控室はもっと狭いんです。パーティションで区切られていて、パーティションを挟んだ隣の椅子には対戦相手の相内選手が座っていました(笑い)。よりによって対戦相手がたった一枚のパーティションの隣にいるなんて思ってもいませんでした。ただ、デビュー戦だったので「こういうものなんだろうな」という知らぬが仏状態でありながらも、隣から対戦相手の声が聞こえてくる空間が緊張感を高めたのは事実です。何せどう戦うかみたいな話も丸聞こえでしたから(笑い)。全て含めて印象深いデビュー戦であり、プロ初勝利、44歳にしてリングデビュー、初のオープンフィンガーグローブ、などなどとにかく全てが記憶であり記録でした。
-オープンフィンガーグローブでの戦いに怖さはなかったのですか?
安彦 もちろんありました!でもここはあえて過去形でお伝えしておきます。とにかくどんなものなのか全くわからない中、相手は元プロ野球選手で身長も僕より10センチも大きい。その相手に普通のグローブではなく、指が出ている状態でアンコの部分が小さい、緊張状態が一気に高まったのを覚えています。元プロ野球選手VS元Jリーガーの戦いですから、イロモノと思われても仕方ない中でしたが、こっちはそんな気になれない。ただただ怖くて必死でした(笑い)。でも今はグローブよりオープンフィンガーグローブの方がやりやすいですし、気持ちがいいですね。やっぱり僕は何かに拘束されたり誰かに縛られたくない人間なんだと思います。それが例えグローブであっても(笑い)。
-前回の「FIGHT CLUB」では前口大尊選手にTKO負けでしたが、その時の心境など教えてください。
安彦 悔しさとふがいなさでしたね。肩が外れて動けなくなってしまってどうにも戦えなかった。気持ちはまだまだ勝負したい思いはありました。でも身体は全く動かずで。リングの上から泣き叫ぶ45歳は滑稽だったと思います。
-はい。
安彦 はいって言うな(笑い)
-すみません。
安彦 でも、泣きじゃくってでも、何としてでもやらせてほしい、そう思ったんです。駄々をこねるほど、じだんだを踏んででも食らいつきたいくらいまだやりたかった。僕は自分から何かを諦めることを諦めた人間です。自ら白旗をあげるなんて2度としないと決めていたので。だから悔しくてふがいなくて涙が止まりませんでした。
-当時の-周囲の反応はどうでしたか?
安彦 いろいろな方が丁寧な言葉をかけてくれました。特に周囲の経営者さんたちは、ものすごいメッセージだったとあの涙を称賛してくれました。あそこに至るまでの血のにじむような努力がわかるから、と。とはいえ中にはバカにする人もたくさんいました。「やりたいなら泣いてないでまずは立てよ」と。それはそうなんですけど、脱臼した状態って結構立てないんですよ。それでも気持ちは戦いたい。身体と心のバランスが乖離(かいり)していた状態ですね。その中でもうれしかったのが、山口侑馬選手が僕に「最高でした!想いは届いてます。少なくても僕には」と言ってくれて…あの言葉に救われた自分がいます。そんな中、兄貴の裕人選手は、「負けましたね」「泣いてましたね」とイジってきました。「お前もな!」と返しておきましたが(笑い)。
-「FIGHT CLUB2」への想いをお願いします。
安彦 とにかく出場したいです!!YA-MAN選手!ぜひよろしくお願いします!!とはいえ、僕にできることは僕なりのメッセージでアピールをすることだと思っています。誰かをあおったり、ディスったり、けんかを吹っかけたり、そんなことはできません。僕が戦う理由は、苦しんでる人や自分を認められない人や年齢をいいわけにして一歩踏み出せない人、それ以外にもいろいろな言い訳を使って未来に希望を見いだせない人の力になりたいからです。誰にだってチャンスはある。でもそのチャンスは熱量も循環の中にしかない。自分が火種になって、熱を帯びた状態でそれを伝え続ける。格闘技で挑戦で、僕は社会を良くしたい。格闘技で社会が良くなるわけないって決めつけている人もいるけど、僕はそうは思わない。なぜなら格闘技は武道だからです。フランスで柔道がサッカーと肩を並べるくらい国民的スポーツなのはそこの「道」があるからだと思います。哲学があり、文化と伝統があるフランスだからこそ「道」の意味をわかっているのではないでしょうか。その武道の「道」をちゃんと伝えることで、日本はもっと良くなると思っています。「FIGHT CLUB2」に出場することで、社会へのメッセージを発信していく。年齢なんてただの数字。やるかやらないか。人生の豊かさは決断の数で決まると思っています。
◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。22年2月16日にRISEでプロデビュー。プロ通算3勝1分け2敗。175センチ