東京ドームで戦えることに喜びと高ぶりを感じますが、僕は今でも「『井上尚弥』に話題性なんてない」と思っています。
世界王者になっても、目の前の世界は想像していた華やかなものではありませんでした。チャンピオンになったころは、防衛戦の会場も埋めることもできない選手でした。ここまで来られたのは「ただリング上のパフォーマンスで見せる」という思いを貫いてきたから。時間はかかったかもしれませんが、それが今につながる唯一の道だったと思っています。
今年は、大橋ジム30周年の節目の年です。ジムに歴史があるのと同じように、ボクサーも急に強くなることはありません。僕がジムに入った時、世界王者だった八重樫さんの姿を見て、練習への向き合い方を学びました。1日、1日の練習にどれだけのエネルギーを注げるか。今回の試合も、いつか後輩たちにとって「あの試合があったから」というきっかけになればと思いますし、自分の練習、姿勢を見て感じてもらえる部分があればうれしいです。
ここまで来られたのは、自分の力や、これまで残してきた結果だけではありません。会長の「東京ドームを実現させるんだ」という強い思いがあったからこそだと思っています。
キャリアが浅かったころは分かりませんでしたが、会長のすごいところは「出るところは出る」勝負勘だと感じています。会長が断ろうと思っている試合でも、僕が「やります」と答えたら、その気持ちを尊重して動いてくれる。その瞬間の見極め、判断の連続の上にプロボクサー「井上尚弥」があると思っています。
今回のドーム決戦は、残りのキャリアを加速させる試合です。世界王者となって10年、大橋ジム30年のタイミングで東京ドームで戦えるのも何かの縁。この舞台に立てる意味をかみしめ、必ず成功させて、みなさんと喜びを共有したいと思っています。
井上尚弥