人口の倍の猫が暮らす島 マルタを映した「ねこしま」は見るアニマル・セラピー
マルタ共和国は地中海の島国で、複数の島の面積の合計は東京23区の約半分にあたる。人口53万人に対して100万匹近い野良猫が暮らしているという。
「ねこしま」(1月10日公開)は、そこで暮らす人たちの猫愛と、たくましい猫たちを追ったドキュメンタリーだ。
黒い耳がアクセントになっている白猫ナーヌはスマートなフォルムが美しい。よく見ると左の前脚がない。
その住み処の近くにあるレストランの元オーナー、ミシェルと友人のサルヴェが、ナーヌが事故にあったいきさつとその後のエピソードを明かす。
彼女たちは当たり前のようにナーヌを保護し、獣医師の手に委ねる。事故の原因となった観光客と飼い犬を決して悪く言わないのも印象的だ。住民たちは猫たちの健康に常に気を配り、事情を知らずに訪れる観光客にも寛容だ。もともと野良のはずなのに、数日見かけなくなると「行方不明」としてSNSで情報を共有する。
オーストラリア生まれで、撮影の4年前にマルタに移住したサラ・ジェイン・ポルテッリ監督は、そんな理想的な共存関係を淡々と追っていく。
交通事故から立ち直ったブラッキー、監督自身が大のお気に入りというボブ…どの猫にも「わが道を行く」個性が際立ち、それを見守る住民たちとの関係に思わずほほ笑んでしまう。
猫たちの生活環境を守るためには、一匹でも多く去勢手術を施すことが肝要だが、NGOのスタッフに限らず、10代のアイザックのようにボランティア活動に奔走する少年もいる。
冒頭のミシェルとサルヴェは示唆に富んだことを言う。
「猫それぞれ、いろいろな子がいる。1つの解決策が正解というわけではない。彼らには自分を癒やすだけでなく、周りも癒やす力を持っている。人が見習うべきことが少なくない」
1年の300日が夏というマルタの陽光の下で繰り広げられる猫と人のドラマは、見る「アニマル・セラピー」と言えそうだ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)
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映画のない生活なんて、考えられない。映画は人生を豊かにする--。洋画、邦画とわず、三十数年にわたって映画と制作現場を見つめてきた相原斎記者が、銀幕とそこに関わる人々の魅力を散りばめたコラムです。