CKDによって高まる歯周病や虫歯リスク/歯学博士照山裕子

「100歳まで食べられる歯と口の話」<45>

日本は歴史上で初めて「50歳以上の人口が半数を超える」国になりました。来年には人口の約4分の1が後期高齢者になると推測され、こうした背景をふまえて、健康長寿の鍵を握る生活習慣病の予防や進行抑制に対する研究は加速度的に進んでいます。

肝臓と腎臓が人体にとって非常に重要な部位であることから「特に大切なこと」を表す意味で使われている「肝腎要(かんじんかなめ)」という言葉があります。

腎臓は血液をろ過する重要な臓器です。体の中にたまった老廃物や水分、余計な塩分などを尿と一緒に排せつし、恒常性の維持に欠かせない働きをしています。約100万個のネフロンという特殊な構造が腎臓の基本単位ですが、毛細血管が球状に絡まった糸球体と尿細管から構成されています。

特に糸球体は繊細な組織であるため、加齢による老化だけでなく、糖尿病、高血圧といった、血管に負荷のかかる生活習慣病などの影響を受けやすいとされています。ダメージを受けると当然、本来体の外に出すべき悪いものが体内に蓄積されることになります。

腎臓の機能低下が慢性的に続く状態にあるCKD(慢性腎臓病)は新たな国民病といわれるほど患者数が増えている疾患です。2023年時点の国内での患者数は約1480万人で、これは成人の7人に1人という計算になります。

歯科の領域では生活習慣病をもつ患者さんに対する歯周病リスク管理が日常臨床の柱となっていますが、CKDも同様です。腎臓の働きのなかに「ビタミンDを活性化させて骨を丈夫にする」という役割があるため、障害されると骨の代謝やカルシウムの吸収がうまくいかなくなり、結果歯を支える骨にも影響が出てきます。免疫機能が低下するので細菌に対する抵抗力も弱まります。人工透析や薬の影響による「口の渇き」は、歯周病だけでなく虫歯リスクも上昇させます。