- 金藤の金メダルに喜ぶフットマーク社の社員(撮影・青木沙耶香)
<リオ五輪:競泳>◇11日◇女子200メートル平泳ぎ決勝
競泳女子200メートル平泳ぎで金藤理絵(27=Jaked)が金メダルを獲得した裏には、下町企業の献身的な支えがあった。東京・墨田区でスクール水着や介護用品を手掛ける会社「フットマーク」は、11年から金藤を物心両面でサポートしてきた。同社製の水着で練習を積み、世界へ挑戦して6年。ついに下町発“金色ロケット”が、リオの地で打ち上がった。
相撲の町、両国駅から徒歩10分。閑静な街並みに一軒家や問屋が軒並ぶ中、小さなビルが立っていた。製品の6割をスクール水着が占め、全国の小中学校でのシェア率は10%強でトップクラスを誇る。その後、10年に競泳界へ後発ながら参入。イタリアの水着ブランド「Jaked」の国内販売ライセンスを取得した。そして翌11年、水泳販売部の小林智也部門長(42)が加藤健志コーチと親交があった縁で、金藤との所属契約が実現した。
実際の試合で着用するのはJakedだが、フットマーク社は練習水着を提供し、金藤は本大会でも同社製を使用する。水泳開発チームの加藤良一さん(39)は「僕らはサポートすることしか出来ないので気持ち良く泳がせることを意識している」と話す。金藤の要求にも熱心に応えた。伸縮性があることが特長ではきやすさは抜群。平泳ぎのキックが打ちやすいという。
同社にとって金藤は初めての所属選手。手探り状態ながらも、小規模の利点を生かした。全社員が触れ合う機会をことあるごとにつくり、距離を縮めてきた。12年のロンドン五輪選考会で敗退した際は三瓶芳社長(58)が励ましの手紙を送った。その後も変わらず見守り続け、家族のように愛を注いできた。応援団「りえっ娘倶楽部」も結成した。大会があるごとに壮行会を行い、手作りの応援ビデオで激励してきた。
そして、会のあとには食事会も開催した。下町ならではのもんじゃ焼きを囲み、たわいもない会話で盛り上がる。金藤からは毎週のように練習報告のメールが届き、朝礼で全社員に知らせる。社員も「自分も頑張らなくちゃ」とモチベーションアップへつなげた。
この日、本社に集まった社員ら約70人は金藤が1位でゴールした瞬間、抱き合い、涙を流して喜んだ。三瓶社長は「こんなに感動したのは初めて。諦めずに努力し、挑戦することの大切さを伝えてくれた」と興奮気味に話した。下町企業から金メダリストを輩出したことで経済効果は期待できる。「何かご褒美を出したい」とし、金藤モデルの水着の製品化へも「いいかもしれない」と満面の笑みを浮かべた。【青木沙耶香】
◆フットマーク株式会社 東京・墨田区で1946年(昭21)創業。資本金8500万円、売上高約42億円。学校体育用やフィットネス用などの水泳用品の他、介護用品やマタニティー用品の製造、販売が主な事業内容。経営理念は「お客様が第一」。三瓶(さんべ)芳代表取締役社長。
<下町とスポーツ>
◆下町ボブスレー 東京・大田区の町工場が中心となって11年から純国産のボブスレーを冬季五輪に送りだそうとスタートしたプロジェクト。今年1月にジャマイカ代表へのそりの無償提供を発表。18年平昌五輪での採用を目指し、改良を重ねている。
◆下町カヌー 東京・墨田区の浜野製作所や東洋大などが連携し、日本人の体格を考慮した国産の船艇とパドルの開発、18年までの製品化を目指している。20年東京五輪で2大会連続の日本人メダリスト輩出をバックアップする。
◆下町ホイッスル 東京・葛飾区にある野田鶴声社の銅製ホイッスルは、サッカーW杯や五輪のバレーボールなどで使用されてきた。ハーモニカのノウハウを生かし、高く澄んだ音が出る「魔法の笛」。