<12球団担当記者が見た 今季のターニングポイント セ・パ1位>
24年シーズンは、セ・リーグ3位のDeNAの下克上日本一で幕を閉じた。12球団それぞれに、今季の成績を左右した「瞬間」がある。「12球団担当記者が見た 今季のターニングポイント」と題し、密着取材を続けてきたからこそ知る分岐点を記す。最終回は、リーグ王者の巨人とソフトバンク。
- 9月11日、広島戦の9回無死満塁、同点適時打を放った岡本
■「我慢 我慢」巨人最終回打者13人9得点逆転
巨人阿部監督に、新風ならぬ“突風”が吹き込んだ。9月11日、敵地マツダスタジアムでの2位広島との首位攻防3連戦の2戦目だった。2点を追う9回に相手守護神の栗林を攻略して6安打、8人連続出塁、打者13人の猛攻で一挙9得点で逆転勝利を収めた。
8回までわずか3安打、無得点で無風状態だった。バックスクリーン後方の掲揚台の旗がかすかに動きはじめたのは8回裏の守備だった。門脇、吉川の好守で機運を予感させた。「そこで若干の流れがこっちにきたんじゃないかなと思ったんですけど、やっぱりそういうところですね」と阿部監督は言った。
9回。先頭の代打中山、丸が連続四球で一、二塁。続く坂本には犠打の選択肢もある中で「どんな結果でもいいから、好きに打ってこい」と託し、左前打で無死満塁の絶好機をつくった。吉川が押し出し死球で1点差、岡本和の左前適時打で同点。モンテスが押し出し四球を選んで勝ち越して、相手守護神栗林をKO。さらに門脇、浅野、代打長野、増田大も連なった。
今季チームスローガンは「新風」を掲げた。強引に吹かせる風があれば、吹くまで待つ風もある。「今日は我慢、我慢と自分で言い聞かせてやっていました」と試合後に心中を明かした。2位広島とのゲーム差を3に広げた逆転劇。阪神を含めた三つどもえの大混セの中、後に広島の大失速へと追い込む1勝にもなった。【巨人担当=為田聡史】
- 7月30日、マジック点灯にも口元を引き締めるソフトバンク小久保監督
■ソフトバンク周東が見せた隙から「走塁メソッド」改良
潮目が変わりかけた。6月8日の敵地DeNA戦。勝利したにもかかわらず、ソフトバンク小久保監督は「今日はありえないプレーを起こしている」と怒り口調だった。真昼の横浜で就任以来禁じてきた隙を見た。
問題のシーンは1-0の5回だった。先頭の周東は投前にゴロ。快足を飛ばして一塁を駆け抜け、タイミングはわずかにアウトだったが、一塁手のオースティンが落球。セーフ判定となったが、アウトと思いこんでいた周東はグラウンド内を通って三塁側ベンチに戻った。
インプレーとなり、周東はタッチアウト。記録は投ゴロではなく「走塁死」と判断された。翌日、4軍まで全選手にこのシーンが共有された。後日、指揮官は「あれはルールにしていなかった。ありえんからルールに追加します」とシーズンで初めて「走塁メソッド」を改良したことを明かした。周東の走塁ミスで小久保ホークスは羅針盤を正確に整えた。
ソフトバンクは最終的に貯金42の独走でリーグ優勝を果たした。積み上げた91勝は隙を許さない小久保監督のマネジメントから生まれた。優勝マジック「42」が初めて点灯した7月30日には報道陣にもくぎを刺した。「マジックって言ったって、まだ大概あるでしょ。もう禁句です。あなた方がそれをしゃべるのは禁句にしてください。勝手にしてください」。地に足をつけ、決して浮かれない。パ・リーグ王者の結末は必然だった。【ソフトバンク担当=只松憲】