子どもに特有の着色汚れ/歯学博士・照山裕子
「100歳まで食べられる歯と口の話」<43>
この30年の間に日本で最も変化したことのひとつが、子どもの虫歯保有率だと思います。厚生労働省が行う歯科疾患実態調査によると、6歳児(乳歯だけでなく永久歯が生え始める変化の時期)が虫歯になる割合は1993年に88・4%だったのに対し、2022年では30・8%と出ています。学校や保護者に対して虫歯予防の知識共有がなされ、ヘルスプロ-モーションが奏功した結果が日本の子どもたちの健康を守っているのだと思います。
自治体による医療費の助成制度も普及し、ある程度の年齢までは金銭的な負担がほぼなく治療を受けられる仕組みも発達しました。クリニックには定期的な歯科検診に来るお子さんの数も増えており、小さい頃から歯を大切にする姿勢が根付いている現代文化はとてもすてきだと実感する毎日です。
Black stainと呼ばれる、子どもの歯に特有の色素沈着があります。主に歯と歯ぐきの境目付近に付いていることが多いため、審美的な問題はあるものの病気ではありません。詳細なメカニズムはまだ解明されていないのですが、色素産生能を持つ口腔(こうくう)内細菌や唾液の性状などが関与しているのではないかと言われています。代謝の過程で硫化鉄をつくる菌種が多く存在する、あるいは唾液中のカルシウムやリンといったミネラル成分が豊富、緩衝能が高いといったいくつかの特徴があり、Black stainを持つ子どもは虫歯にはなりづらい傾向にあるようです。
黒く目立つので「虫歯かも」と駆け込んでくる親御さんも少なくありませんが、進行性の虫歯と異なり歯を削って処置をする必要がないので、歯科医院でしっかりと鑑別診断をしてもらってください。
クリーニングで比較的簡単に落とせる茶渋などと異なり、歯に強固に付きやすいですが、成長とともに消失することがほとんどだと言われています。安易に歯を傷めることがないよう、担当医と相談しての経過観察が大切です。