開催国チリの躍進が光った大会だった。６万５０００人が集まった開幕戦で３－１でスイスを破ると波に乗った。

　５４、５８年と連続して出場権を逃し、本大会に駒を進めた過去２度はいずれも１次リーグ敗退。それでもアルゼンチンとウルグアイに次ぐ南米で３番目、１３年のＦＩＦＡ加盟という歴史から、国技のロデオ以上に人気は高かった。４年前から代表を結成した強化策が奏功し、同国史上最高の３位に食い込んだ。

　好成績を収めなければならない理由があった。アルゼンチンとの誘致合戦の末に、既に開催が決定していた６０年５月２２日。マグニチュード９・５という世界最大規模の地震がチリ沿岸で発生した。死者５０００人以上、２００万人が家を失ったといわれる。特に南部の被害は大きく、当初の６都市から４都市へと規模を縮小しての開催となった。前回５８年スウェーデン大会の１２都市を大幅に下回る。第１回ウルグアイ大会の３都市に次ぐ、史上２番目の少なさだった。

　当時のチリ協会カルロス・ディトボルン会長は「われわれはすべてを失った。だからこそ、Ｗ杯を開催しなければならない」と訴えた。国民に勇気を与えるためにも、開催国の意地を見せる必要性を説いた。絶大な後押しを受けた代表は準々決勝で優勝候補のソ連を２－１で撃破するなど、３位と大きな成果を残した。

　だが、決勝戦の舞台となった首都サンティアゴのナショナル・スタジアムは１１年後、政治犯の収容所となった。軍事クーデターで社会主義政権が崩壊し、独裁政権に移行したことが原因だった。貴重な資料を失うとともに栄光の歴史に泥を塗る、悲しい出来事となってしまった。