サッカーはピッチ上の戦争に例えられるが、メキシコ大会が原因で、本当に国家間の戦争が起こってしまった。中米ホンジュラスとエルサルバドルの「サッカー戦争」だ。

　北中米カリブ地区の代表は、第１回大会からメキシコのほぼ独占状態だった。だが、今大会はそのメキシコが開催国ということで予選に出場せず、枠が１つ増えたために他の国々の目の色が変わった。そして、２次予選での両国の激突が、戦争の発端となってしまった。

　第１戦はホンジュラスが１－０で勝ち、第２戦はエルサルバドルが３－０と雪辱した。そして迎えたプレーオフ。その前日にはエルサルバドルがホンジュラスとの国交を断絶したというニュースが流れた。プレーオフが行われたメキシコのアステカスタジアムにはメキシコ軍が入場し、両国のファンを「武力」で隔離した。試合は延長にもつれ込み、エルサルバドルが３－２で勝利。その後にハイチを破って本大会に初出場した。

　実は以前から、両国の溝は深くなっていた。エルサルバドルからは数十万人がホンジュラスに出稼ぎに出ており、国境線も不確かだったこともあってホンジュラス国民とのあつれきが多かった。予選前にはホンジュラス政府がエルサルバドル人に国外退去を命令。一触即発ムードの中で行われたＷ杯予選だったのだ。

　２次予選直後には、とうとうホンジュラス軍がエルサルバドルに侵攻。両国は数週間交戦することになった。１０年後に平和条約が締結されるまで、２つの国の間には危険なムードがくすぶり続けた。