第10回西ドイツ大会
カテナチオこじ開けたハイチ、初戦にミラクル
ハイチが「小さな奇跡」を起こした。1次リーグでは優勝候補のイタリア、南米の雄アルゼンチン、イングランドを初めて予選敗退に追いやったポーランドと同じ激戦区に組み込まれた。初出場国にとってはアンラッキーな抽選。だが、思わぬ「勲章」を手にすることになる。
初戦にミラクルの瞬間が訪れた。相手は堅守を伝統とするイタリア。過去2年間で無敗、そして伝説のGKゾフが守るゴールはその間、1度も割られたことがなかった。その「カテナチオ」のカギを、小国ハイチがこじ開けたのだ。0―0で始まった後半開始早々、FWサノンが果敢に中央突破。美しき独走から、イタリアのゴールネットが、実に1147分ぶりに揺さぶられた。
予選から幸福続きだった。まず、北中米カリブ海予選の全試合が地元開催という恩恵を受けた。トリニダードトバゴとの試合では、相手の4ゴールがオフサイドの判定などによって取り消された。もっとも、判定を下したエルサルバドルの主審は、国際試合の審判資格停止処分を受けたが...。そして、それまで9大会中7大会のW杯出場を誇っていたメキシコを退け、本大会に駒を進めていた。
結局ハイチは、イタリア戦は1-3逆転負け、ポーランドには0-7、アルゼンチンに1-4と完敗する。だが、ハイチが挙げた1点は、イタリアの精密なカギをねじ曲げていた。イタリアはアルゼンチン戦でFWカペッロ(現ユベントス監督)を相手ウイングのマークにつかせる愚策を用いるなど、1次リーグ3戦で結局4失点し、敗退した。協会創立70周年の年に挙げたW杯初ゴール。人口約800万の国で、永遠に語り継がれる1点となった。