第13回メキシコ大会
マラドーナ、ベルギー戦でも4人抜き
マラドーナがイングランド戦で見せた鮮やかな5人抜きは、長く語り継がれるプレーだが、準決勝のベルギー戦でも同様のプレーを披露した。5人抜きはピッチの約半分を使ったものだったが、今度はペナルティーエリア内の狭い地域で、ドリブルでの4人を抜いてゴールを決めた。
決勝は西ドイツが相手だった。アステカの暑い日中、アルゼンチンが2-0とリードした時点で、一方的な勝利になるかと思った。だが、不屈の西ドイツは追い付いた。体調不十分といわれていたルンメニゲが執念で押し込み、後半から投入されたフェラーがヘディングで同点ゴールを決めた。終了まで残りはまだ10分あった。
しかし、試合を決めたのは、やはりマラドーナだった。同点にして試合の流れを引き寄せた西ドイツは押せ押せで攻勢を続けたが、3点目は奪えなかった。逆に、攻め上がったすきを突かれた。自陣からのマラドーナの長いスルーパス1本でブルチャガが抜け出し、ドリブルで難なく決勝ゴールを奪った。
78年地元アルゼンチン大会では最後の最後にメンバーから落とされ、82年スペインでは厳しいマークにあって冷静さを忘れて退場処分を受けたマラドーナが自らの力で、待ちに待った世界の頂点に立った瞬間でもあった。神の手を借りたゴールがあったとしても、メキシコの暑い太陽の下で、マラドーナはまぶしく輝いて見えた。25歳、マラドーナの時代がやってきたことを感じた。【86年大会取材・黒木博一】