第16回フランス大会
カズが落選しヒデが世界へ
歴史的なW杯初出場を決めた日本で「主役の座」を奪った話題は、開幕前の最終メンバー22人の発表だった。スイス・エクスレバンで直前合宿していた日本は、岡田監督が25人から3人の落選者を決めなければならない期限が迫っていた。
迎えた6月2日、岡田監督は「カズ(三浦知)、北沢、市川」と発表。ホテルの自分の部屋のカギを右手に持ったまま、車で10分の会見場に現れた。手に汗を握っていたのが分かる。極限の精神状態で、最終メンバーを決めたのだろう。落選したカズと北沢からは、本大会に帯同せず帰国したことで、その傷心ぶりが伝わってきた。
ただし、岡田監督は「(3人は)使う機会はないと判断した」と毅然(きぜん)とした態度を貫いた。結局、初めてのW杯ではアルゼンチン、クロアチア、ジャマイカと3戦全敗で1次リーグ敗退。3試合で1点しか奪えなかった現実に、日本が帰国した成田空港では、城が心ない男性サポーターから水をかけられる事件が起きた。カズ落選の衝撃が、伏線になっていたのかもしれない。
3戦全敗のW杯で、収穫もあった。司令塔の中田が21歳という若さでセリエAペルージャから正式オファーが届き、イタリアへ渡った。カズに続く日本人2人目のセリエAプレーヤー。中田が突破口となり、その後は名波らが海外へと飛び立った。岡田監督もJクラブ(札幌、横浜)で成功している。日本にとって21世紀への躍進につなげる世界舞台だった。【98年大会取材・横田和幸】