舞台雑話

大竹しのぶ、林芙美子の思いを伝える主演舞台「太鼓たたいて笛ふいて」がライフワークに

「太鼓たたいて笛ふいて」への思いを語った大竹しのぶ(2024年9月撮影)
「太鼓たたいて笛ふいて」への思いを語った大竹しのぶ(2024年9月撮影)

作家林芙美子を主人公にした舞台と言えば、菊田一夫さんが脚本を書き、森光子さんが主演した「放浪記」が真っ先に思い浮かぶだろう。1961年に初演され、2009年までに上演回数は2017回を数えた。森さんが亡くなったため、2015年に仲間由紀恵主演で「放浪記」が上演されたが、以降、「放浪記」の上演はない。一方、同じ林芙美子を主人公にした「太鼓たたいて笛ふいて」が新宿の紀伊國屋サザンシアター(30日まで)で上演されている。こちらは井上ひさしさんの作品で、大竹しのぶが主演している。

「放浪記」は林芙美子の自伝的な小説で、舞台版は貧しい生活を経て、作家として成功するまでを描いている。それに対し「太鼓たたいて笛ふいて」は人気作家となった芙美子が、陸軍報道部報道班員の肩書で従軍し、最前線で闘う兵士の勇敢な姿を美しく描いて、軍国主義の宣伝に奔走する。終戦直前に南方戦線の実情を見た芙美子は戦争の現実に目覚め、戦後は「太鼓をたたき、笛を吹いて、国民を躍らせた」罪の意識から、戦争の悲劇に向き合った作品を書き続ける姿を描いている。

2002年に初演され、04年、08年、14年に上演され、今回が10年ぶり5度目の上演となる。生前の井上さんは大竹の演技に「林芙美子の後半生の高揚と沈潜を豪快かつ繊細に演じ分ける大竹さんには、いつも涙が出てきます」と称賛している。

大竹もプログラムのインタビューで「自分の間違いを正すことを、生命を削るようにコツコツと果たしていく。その潔さが実にすてきで、井上さんが書いた芙美子の素晴らしさはそこにあるような気がします」と話している。劇中で芙美子は「書かなければ」と机に向かうが、大竹も「伝えなければ」という思いで舞台に立っている。シャンソンの女王ピアフを演じて歌う「ピアフ」とともに、ライフワーク舞台となっている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

華やかな舞台、輝く役者。夢の世界であると同時に、そこには舞台裏とさまざまな人間模様もあります。演劇、演芸について、林尚之記者がさまざまな切り口から伝えます。あなたも、演劇の世界がきっと好きになります。

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