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- 9月の自民党臨時総務会に出席した際の石破茂首相(左)と、麻生太郎最高顧問(2024年9月30日)
先月の衆院選で56議席を減らし、少数与党になってしまった自民党。「早期解散論」に押されて10月1日の首相就任から8日で衆院解散に踏み切り、1カ月もたたないうちに初陣で「敗軍の将」となってしまった石破茂首相(67)。その石破首相も出席し、惨敗した衆院選を総括する名目で、11月7日に両院議員懇談会が自民党本部で開かれた。
党本部でいちばん広い会議室に無数に並べられたパイプいすは次々と出席議員で埋まり、壁際に立ったままの議員もいた。党本部で開かれる会合ではたまに空席もあるが、この日は本当にぎっしり。執行部がどう衆院選を総括するのか、関心がいかに高いか、開始前からにじむ雰囲気だった。
報道陣に公開されたのは冒頭の石破首相と、逆風にダメ押しとなった非公認候補への2000万円を支給した森山裕幹事長のあいさつまで。2時間の予定を1時間オーバーする3時間、石破首相らは50人以上の出席者から出る批判や意見にひたすら耐えた。事実上「ガス抜き」の場だったが、青山繁晴参院議員が補正予算成立後の辞任を求めたほか、そこまでいかなくても敗因の詳細な総括を求める声も多く、「ガス抜きで終わり」という雰囲気にはならなかったようだ。
悲願だった首相に就任してから1カ月あまりで「辞めろ」といわれるとは、石破首相も想像していなかったのではないだろうか。ただ石破首相自身、かつて重要な選挙で敗れた時の首相に正面から退陣を迫ったことがあった。長い時を経て、「ブーメラン」のように回ってきたことになる。
石破首相は2007年参院選で大敗した第1次政権時代の安倍晋三氏にメディア出演などで退陣を求め、両院議員総会の場でも「何を反省しどう改めるか、はっきりさせるべき」と迫った。2009年6月の東京都議選で敗れた麻生太郎氏には、農相の立場だったが、直接面会した際に退陣を求めたと報じられた。その後麻生氏は衆院解散に踏み切ったが、衆院選で当時の民主党に政権を奪われた。
そんな禍根もあって安倍、麻生両氏はその後、石破氏との関係の悪さが伝えられてきた。今年9月の自民党総裁選でも麻生氏は石破氏と争った高市早苗氏を支援したとされる。石破新執行部発足を受け最高顧問となった麻生氏が、新執行部発足時の恒例の写真撮影で1人、その場を去ろうとし、カメラマンに「最高顧問!」と呼び止められても、そのまま立ち去ったのは記憶に新しい。
7日の両院議員総会には、その麻生氏も出席していた。かって自身が総理総裁時に退陣を迫ってきた石破首相が、辞任要求を含めた所属議員からの厳しい意見にさらされる様子を、どのような心境で見つめていたのだろう。
会合に出席した議員によると、3時間の間、50人近い議員が発言した後、最後に石破首相と森山幹事長がコメントして会は終了。麻生氏はこの間、言葉は発しなかったという。これを石破首相に対する「無言の圧」ととらえた人もいれば、退陣を求めるようなことをせず「さすが」ととらえた人もいたようだが、出席議員の1人は「麻生さんがあの場にいただけで、総理には『圧』になったはず」と口にした。
その麻生氏は石破政権発足で「冷や飯組」に転じるとみられてきたが、ここにきて存在感を「再評価」する声もあると聞いた。米大統領選で共和党のトランプ氏が4年ぶりに返り咲いたが、麻生氏は岸田政権だった今年4月、ニューヨークのトランプタワーにトランプ氏を訪ねて面会した。1議員の立場だったが、トランプ氏再選に備えた対応だったとされる。大統領に返り咲くトランプ氏とのパイプは、石破政権は必ずしも太いとはいえないとみられ、麻生氏の「地ならし」(関係者)が今後、生きる余地もあるためだという。
石破首相は大統領選勝利直後のトランプ氏と電話会談し「非常にフレンドリーな感じがした」と感想を述べたが、外務省が発表した会談時間は約5分間で、通訳時間をのぞけば実質2分半ほど。直接会談などを通じた本格的な関係構築はこれからになるが、トランプ氏がどんな対応に出てくるのかは見通せない。そんな石破首相を支える足元の自民党でも、首相への厳しい声が消えたわけではない。
石破首相にはこれから、さまざまな「圧」が待ち受けている。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)