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- 石破茂首相(2024年10月28日撮影)
政治が激動した2024年も、あっという間に12月。5度目の挑戦で自民党総裁選を勝った石破茂首相が第102代内閣総理大臣に選出されたのは、ちょうど2カ月前のことだ。当時はそれなりの期待感もあったが、その後、悪い方に悪い方に状況が変化していく様子も、ある意味、あっという間の出来事だった。
当初の主張を変えて衆院解散を前倒しし、裏金事件幕引きを狙って急いだ衆院選は、自民党が56議席減の惨敗。少数与党という、歴代の自民党の首相でもほとんどいない苦境沼に陥っている。11月28日に始まった臨時国会の衆院本会議場を記者席から見渡すと、衆院選前と比べて2列分くらい、議員の議席エリアが自民党から立憲民主党に変わっていたように感じた。「自民1強」の政治状況が明らかに変わったことを実感する機会にもなった。
総理大臣が交代するタイミングで個人的興味から振り返ることがある。「国技」でもある大相撲に、どんな形で関わったのか、ということだ。東京開催場所の千秋楽に、時の首相が出向いて内閣総理大臣杯を手渡す姿は、コロナ禍前はよく見られたシーンだった。近年では「痛みに耐えてよーく頑張った。感動した!」と絶叫した小泉純一郎氏のほか、何度か内閣総理大臣杯を優勝力士に手渡し、トランプ夫妻とも観戦した安倍晋三氏は長期政権だったこともあり、印象に残っている。民主党政権の3人の首相も全員、国技館を訪れた。NHKの生中継もあり、時の首相が内閣総理大臣杯授与に登場するのは「人気取り」の側面もあると聞いたこともあるが、現場で取材していて、支持率が高くない首相でも、場内から厳しいヤジが乱れ飛ぶことは、おめでたい場でもあり、ほとんどなかった。
コロナ禍で環境が変わり、官房長官時代には総理大臣杯を抱えた菅義偉氏は、首相としては場所を訪れることなく退任。後任の岸田文雄前首相は国技館に登場できる機会は多かったはずだが、機会はなかった。岸田政権ではむしろ、40キロ近い総理大臣杯の自力授与にこだわり、「怪力」とSNSで話題になった村井英樹・前官房副長官が、強烈な印象を残した。
石破政権になって初めての場所となった九州場所が先週千秋楽を迎え、大関琴桜(27=佐渡ケ嶽)が初優勝を飾った。東京開催場所ではなく首相はもちろん登場しないが、だれが出てくるのか注目していたら、まさかの「八角理事長代理授与」で、ちょっと驚いた。
日本相撲協会から、当日の出席の依頼は政府側に届いていた。恒例行事でもあり当選の流れだろうが、出席なし。次世代を担うことになるだろう琴桜関の晴れの場だったこともあり、個人的にはちょっと残念なシーンだった。
地方開催場所では、ゆかりのある国会議員や閣僚、東京開催場所でも登場する内閣官房副長官が登場することが多い。今回、九州場所に石破政権の関係者がだれも出向かなかったことはSNSでも批判され、11月26日の林芳正官房長官の定例会見でも取り上げられた。林氏は「日程の都合がつかなかったため、政府関係者の出席を見送った。今後とも相撲協会からの依頼に応じて日程の都合が付く限り、政府関係者が出席をする考えです」と述べたが、当日、公務があった人もいれば、地元に戻っていた人もいたようだ。永田町では「だれも派遣しないと石破政権が国技を軽視したようにみられかねない」という苦言も聞いた。
福岡が地元で、何度も九州場所に登場している自民党の麻生太郎最高顧問もいるが、そんな流れにもならなかったのだろうか。
衆院選後の石破首相には、国際会議での「座ったまま握手」や「国際会議でスマホ操作」とか、おにぎりの食べ方までネガティブなとらえ方をされるなど、本筋の部分以外での「失点」が続く。共通しているのは「だれかアドバイスしてあげる人はいないの?」という声だ。党内野党時代が長いまま権力の座に上り詰めた石破首相にとっては、慣れなかったり、思いが至らなかったりすることもあるかもしれないが、そこでだれかのひとことがあればダメージコントロールできる部分もあるように感じる。 年が明けて来年1月には、両国国技館で大相撲初場所が行われる。首相就任後、初の東京開催場所となった2013年1月の初場所で、優勝した日馬富士に内閣総理大臣杯を渡した安倍氏に、場内は大きく盛り上がった。通常国会の日程状況など流動的な要素はもちろんあるのだが、歴代総理もたびたび登場してきた東京場所。「代理」ではない首相の登場で、九州場所の「失点回復」が実現するのかどうか、個人的に見守りたい。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)
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- 2024年11月24日、九州場所千秋楽 八角理事長(右)から内閣総理大臣杯を受け取る琴桜