2点を追う東京Vは前半34分、FW染野を投入すべく、綱島はベンチに下げられた。試合は4-4という大味な展開となる中、最後のアディショナルタイムに山田に決勝点を奪われた。ベンチでその結果を見届けた綱島にとって、それは非情なものだった。
一夜明けた12月1日、綱島は明治大とのトレーニングマッチに先発出場していた。前日と同じく3バックの右でプレー。J1クラブに内定している猛者が集う名門大学とあって、その強度は思いのほかに高かった。綱島は懸命にボールを追い、体を張っていた。だが、これまでのような強さ、うまさは見えず、足かせをはめているかのように重かった。
そのトレーニングマッチの後、綱島はいつものように真摯(しんし)にメディア取材に応じた。逃げたくなる思いはあっただろう。それでも自らの思いを口にすることで、気持ちの整理をつけたかったのかもしれない。一つ一つ噛みしめるように、言葉をつないだ。
「(今日の試合も)納得はできていないですし、昨日のプレーもそうです。まだまだ自分には伸びしろがあるなと思いながら、それをプラスに捉えてやるだけなので…。残り1試合しかないですけど、とりあえずこの1週間でできるだけ成長して、また成長した姿でピッチに戻りたいなと思います」
■日程の難しさ「言い訳にしない」
川崎F戦で言えば、前半開始1分20秒すぎに、右サイドに出た縦パスを追った。しかしうまく体をコントロールできず、相手のマルシーニョに前へ入られ、一気にゴール前へと抜け出されてシュートを打たれた。ゴール右にわずかに外れたが、綱島らしくない、アラートさに欠ける場面だった。このプレーがその後の流れを作ったのかもしれない。
前節から3週間空いた日程。実戦勘のなさが招いたものなのか。スケジュールの影響を問うと、すぐに否定した。
「それは言い訳にしたくないですし、自分自身やっぱり選手としてどんな状況になっても自分のパフォーマンスを出さなければいけないと思います。仮に自分が代表になって国中を移動して試合するようになった時に、パフォーマンスを出せないんじゃ話になんないと思う。本当に自分はそこを見ているので、やっぱりこの期間で試合勘がないとかっていうのは、そういう気持ち持ちたくない。自分の実力不足だった。また…うん、自分を振り返るいい機会だったと思うので。この経験があったからこそ、自分が成長できたなって思えるような試合にしたいと思います」
気丈に話した。まるで自らに言い聞かせるかのように。気持ちは落ち込んでいたであろう。目はどこか虚ろで潤んでいた。前日の話を振れば、嫌でも24時間前のことが脳裏にフラッシュバックされる。気持ちが落ちるのは当然である。
■「まだまだ成長できるなって」
今シーズンはメンタルトレーナーを付けて、課題とされたプロとしての心の持ちようを作り上げてきた。強烈な目力、迫力を持つ鹿島の鈴木優磨にも気持ちを奮い立たせて挑んだ。心身ともに確実に強くなった。
それだけにミスを引きずったことがショックだった。
「自分はひきずらないようにしていたんですけど、外から見たら引きずっていたというふうに判断されたので、そこは自分の未熟さっていうのは感じます。逆に自分のミスで失点しても、顔色一つ変えないぐらいの選手になりたい。だからまだまだ成長できるなって思います」
もちろん川崎Fのうまさがあった。東京Vの3バックの間をどう攻め込むか、その狙いにのみ込まれたところは大きい。個人の心身のコンディション的な問題だけでなく、チーム戦術の部分でも上回られた。
「トップ下の選手が3枚の間に落ちるので、誰がつくのか分からない状況を意図的に作り出された。外にマルシーニョ選手が張っていて、そこで自分が食らい付いたら、そこの間を取ってくるという狙いもあったと思いますし、最初の立ち位置でのやっぱり自分たちの混乱というのは少なからずあったと思います。結局はバトルなので1対1で負けることがなければ、昨日みたいな試合にはならなかったと思うので、そこのクオリティーを上げていきたい」
■表情とは裏腹な強気な言葉が…
あらためて、立ち上がりの守備の入りが大事だと実感した。自分たちの守備が安定しなかったからこそ、チームが大事にするビルドアップができなかった。前に進めず、押し込まれる展開としたことにより、難しい試合にしてしまった。反省は尽きない。
「フロンターレさんに2点をぶち込まれてから目の覚めるような試合をしては、この先…、この先というか1試合しかないですけど。自分たちが長くJ1でプレーするって考えた時に、そういう試合を一つでもやってしまうとそれは難しくなると思うので。最初から相手に殴りかかるというか、かみつくような感じで、自分たちから主導権を握ってサッカーをできればいいのかなと思います」
その発言は素直に心からこぼれ落ちた類いのものではなく、どこか自らの心にムチを打つように発したものだった。強くならなければいけない、と。そう話した表情と言葉は乖離(かいり)したものだった。
毀誉褒貶(きよほうへん)。憧れだけでは終わらない、プロサッカー選手という職業の厳しさ、リアルな実像が垣間見えた。
だからこそ、勝負の世界に生きる姿は、その壁を一つ超えた時にまた輝きを増す。
そんな苦しみは、確かな次へのステップであることに違いない。【佐藤隆志】