◆紙面企画
事件記者清水優 ブラジル体当たり
◆清水優(しみず・ゆたか)1975年(昭50)生まれ。38歳。東京外大ポルトガル語学科卒。98年入社。静岡支局、文化社会部、朝日新 聞社会部警視庁担当を経て、文化社会部に帰任。事件、事故など中心に行き当たりばったりながら体当たりで取材。体重95キロ。
穴掘ったら水道管、見上げたら電線
【サンパウロ8日】サッカーW杯ブラジル大会の陰で、生活をかけたもう1つのW杯を戦う人たちがいる。開幕戦会場サンパウロアリーナ周辺の地価高騰により住む家を追われた約7000人の住民だ。競技場近くの空き地に巨大なテント村を造り、たくましく生活を続けている。戦う意思を込められたテント村の名前は「COPA DO POVO(コパ・ドゥ・ポーヴォ=我々のW杯)」。住民の話を聞いた。
テント村の敷地は、「VIVER(ヴィヴェール=生きる)」という建設会社の私有地で不法占拠にあたる。しかし、同社も強硬な手段を取ろうとはしない。宅地造成用に取得した土地だが行政の許可が下りず、開発できずにいたからだ。住民側もその事情を知った上でこの土地を選んだ。W杯をきっかけに政府に圧力をかけ、公営住宅を勝ち取れば、同社の利益にもなることも見込んだ。
7000人もの住民の生活には水道、電気、下水道が必要だ。シモーニさんに「たまたま穴を掘ったらパイプがあり、見上げたら電線があった」と笑う。建設作業員の住民たちがプロの技を生かし、水道管からパイプで水を引き、下水は下水管にパイプをつなげ、近くの電線から電気も引いた。
- 元コックでテント村でブラジルの国民食「フェイジョン」を煮込むサンドロさん。厨房は建設現場の廃材などを利用している(撮影・清水優)
テント村の食堂では、主婦や飲食店で働いていた住民が、腕を振るう。サンドイッチ店を経営していたサンドロさん(31)は、店のオーナーがビルごと土地を売却。職を失い、1歳の息子とテント村に入った。サンドロさんは「思い出すと泣きたくなるが、自分はプロのコック。8つの食堂で一番うまい料理を出そうと思ってる」と話した。
テント村の住民「今は嫌になってきた」
テント村の住民は、冷めた目で地元W杯を見ている。ジャパさん(27=男性)は「開催が決まった時はいいことがある、と喜んでいた」という。しかし競技場近くの露天商は排除され、店舗も閉め出された。開催中は地下鉄がストや規制で使えなくなる。生活変化への不満は開幕が近づくにつれて募り「今は(W杯は)嫌になってきた」ともらした。