◆紙面企画
事件記者清水優 ブラジル体当たり
◆清水優(しみず・ゆたか)1975年(昭50)生まれ。38歳。東京外大ポルトガル語学科卒。98年入社。静岡支局、文化社会部、朝日新 聞社会部警視庁担当を経て、文化社会部に帰任。事件、事故など中心に行き当たりばったりながら体当たりで取材。体重95キロ。
日本代表練習中殺人事件 巨大組織の犯行か
【サンパウロ10日(日本時間11日)=清水優、エリーザ大塚通信員】サッカー日本代表がサンパウロ州ソロカバ市で8日に行った公開練習中に殺人事件が起きていた。グラウンド近くの民家の住民が男に銃で撃たれ、3人が死傷した。地元メディアが伝えた。男は逃走している。同じソロカバ市では4月下旬、7件の殺人事件で14人が殺害されており、警察当局は、ブラジル最大の犯罪組織PCC(ペー・セー・セー)が関与しているとみて捜査。PCCは「恐怖のW杯を開催する」「W杯にカオスを」などと公言している。
日本代表の練習中に、わずか500メートルの距離で殺人事件が発生していた-。
サンパウロ州ソロカバ市の精神科の医師エドゥアルド・ゲンカさん(76)と息子夫妻が8日、男に拳銃で撃たれた。救急隊がすぐにかけつけたが、エドゥアルドさんは胸に弾を受け、死亡。あとの2人も撃たれ、病院に搬送された。
現場は日本代表が練習を行っていたソロカバ市の高級住宅街ジャルジン・サンタ・ロザリアのエドゥアルドさん自宅。目撃者によると、撃った男は逃走した。
エドゥアルドさんの自宅玄関のゲートは閉じていたが、男はゲートの外から、駐車場で話していた3人を撃って逃走した。男が使った38口径の銃が隣の家の庭に捨ててあったという。警察当局は逃げた男の行方を追っている。
近隣住民によると、エドゥアルドさんは地域の社会福祉活動にも貢献した人物として知られていた。
今回の事件との関連は不明だが、同じソロカバ市では、4月27日~5月1日の間、7件の殺人事件が発生し14人が殺害されている。
4月27日に殺害されたのは男性警察官(35)。パトカーで巡回中、突然近づいてきた車から銃撃を受けた。同僚の警察官も首に弾を受け重傷。同日夜には、近くのグラウンドでサッカーをしていた男性2人(共に26)が2人組の男に襲われ、殺害された。その後も殺人事件は連日相次いでいる。
警察当局は、一連の殺人事件はサンパウロを拠点とするブラジル最大の犯罪組織「PCC」による犯行とみて捜査。4月29日、警察官を殺した犯行グループの男1人を逮捕した。また、4月29日からはサンパウロ警察当局も捜査の応援に入り、サンパウロ州内で5月中旬、男3人を逮捕し、残り2人の容疑者の行方を追っている。
PCCは、警察署の襲撃なども行う犯罪組織で、W杯ブラジル大会について、「恐怖のW杯にしよう」などと呼びかけている。サンパウロのニッケイ新聞などによると、別の犯罪組織BB(ブラック・ブロック)も「PCCの協力を得て、W杯にカオスをもたらす」などとしており、警察当局が警戒を強めている。
◆ソロカバ市(Sorocaba)サンパウロ州の州都サンパウロから西へ約100キロに位置する工業都市。南米有数の工業団地があり、トヨタ自動車や関東自動車、京セラ、YKKなど日系企業が多数進出している。人口約60万人。同州1部リーグのプロサッカーチーム、アトレチコ・ソロカバの本拠地。日本代表キャンプ地だったイトゥ市から南西約30キロにある。
◆PCC(ペー・セー・セー)「Primeiro Comando da Capital(プリメイロ・コマンド・ダ・カピタウ)」の略称。1993年にサンパウロを拠点に立ち上げられたブラジル最大の犯罪組織。コカインなどの麻薬販売が主な収入源になっている。リーダーの多くはサンパウロの刑務所に収監されているが、この刑務所から、全国に散ったメンバーに、犯罪資金や拳銃などの武器を貸し出し、殺人や警察署襲撃などを実行させている。組織のメンバーは全国で13万人とされる。