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紙面企画

事件記者清水優 ブラジル体当たり

事件記者清水優 ブラジル体当たり

◆清水優(しみず・ゆたか)1975年(昭50)生まれ。38歳。東京外大ポルトガル語学科卒。98年入社。静岡支局、文化社会部、朝日新 聞社会部警視庁担当を経て、文化社会部に帰任。事件、事故など中心に行き当たりばったりながら体当たりで取材。体重95キロ。

リオ最大の貧民街ホシーニャに決死の潜入/下


 【リオデジャネイロ16日(日本時間17日)】W杯開催に巨額の予算を投じた行政への不満は強く、特に教育や社会福祉の不備を訴える声が強い。リオの最大のファベーラ(貧民街)「ホシーニャ」地区。岩山に張り付くように広がる迷路のような町は麻薬組織の拠点としても知られ、学校にも行かず、組織に関与させられる子どもたちも多い。ホシーニャでサーフィンを通じて、子どもたちを麻薬組織から遠ざけ、育てようとしているヒカルド・ハモスさん(42)に話を聞いた。

 「ホシーニャは国から無視され続けてきたが、最近は少し変わった。教育は十分ではないが、今から徐々によくなる」。地区の麓にあるサーフショップ。白、黒、褐色。さまざまな肌の子どもたちが、サーフボードを抱えて笑顔で海から帰ってくる。ヒカルドさんは、そんな子どもたちを「今日の波はどうだった?」と笑顔で出迎えた。

サーフィンスクールの子どもたちとヒカルドさん(右から2人目)(撮影・清水優)

 ヒカルドさんは15歳まで、ホシーニャの麻薬組織に雇われていたという。「子どもだから売人ではないが、組織のちょっとした仕事を手伝って金をもらっていた」。年齢を重ねるにつれ、組織の構成員になるか、麻薬中毒者になるか。そんな生活から、ヒカルドさんが抜け出したのは、16歳の時に出会ったサーフィンがきっかけだった。

ホシーニャのファベーラ。中央のグラウンドはスポーツクラブ。右隣のビルは職業訓練校

 ホシーニャは岩山の町だが、山の下には海が広がり、サーフィンができる。学校でボロボロのサーフボードを見つけ、自分で修理して海に出た。「もう熱中してしまって、組織の仕事どころじゃなくなった」。組織で金が稼げなくなったが、アフリカ系宗教のお供え物を食べて空腹を満たしながらサーフィンを続けた。さらに壊れたボードを修理する仕事で金を稼ぎ、自立した。

ホシーニャのふもとの運動場でサッカーをする子どもたち(撮影・清水優)

 麻薬組織に取り込まれてしまう子どもを、少しでも犯罪から遠ざけたい。そんな思いで十数年前から、ホシーニャに無料でサーフィンを教えるスクールを開いた。少しずつ生徒が増え、今は小学生から大人まで45人。今年、生徒から初のプロサーファーも生み出すことができた。活動を聞きつけた米歌手レニー・クラビッツらからの支援も受け、少しずつだが生徒と生徒の家族の支援を続けている。

 路上生活をしている子どもを風呂に入れたり、その親に食料を分けてあげたり。「W杯では各国がサッカーで戦う。各国の住民にも、それぞれの戦いがあると思う。自分たちは今、サーフィンで戦っている。ただ、それだけの話」。ブラジル国内で続くW杯開催に反対するデモは、国の教育制度への不満も大きな理由。ヒカルドさんは、貧民街でスポーツを通して子どもの将来を考えている。生活は楽ではないが、活動は続けるつもりだという。(この項終わり)

















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