◆紙面企画
事件記者清水優 ブラジル体当たり
◆清水優(しみず・ゆたか)1975年(昭50)生まれ。38歳。東京外大ポルトガル語学科卒。98年入社。静岡支局、文化社会部、朝日新 聞社会部警視庁担当を経て、文化社会部に帰任。事件、事故など中心に行き当たりばったりながら体当たりで取材。体重95キロ。
勝利に食らいつけ30cmピラニア釣ったぞ
【クイアバ20日(日本時間21日)】日本代表の命運をかけたコロンビア戦の行われるクイアバは、ブラジル南部に広がる大湿原パンタナルの玄関口だ。世界自然遺産にも登録されているパンタナルには、金色の魚ドラドが潜む。日本代表は崖っぷち。ここはひとつ、流れを変えるためにも? 大金星のドラドを狙い、パンタナルを貫くクイアバ川での釣りに向かった。
クイアバの市街から、州道40号線を南に100キロ。セハード(低木地帯)の間を車で1時間半も走ると、日本の本州がすっぽりのみ込まれる23万平方キロの大湿原パンタナルが広がり始める。クイアバ川沿いにある、町の97%が湿原で住民の9割が漁師というバロンジメウガッソという町に入った。
- ピラニア釣りのえさ「トゥビラ」の針への付け方を教えてくれたジュニオールさん
地元ガイドのジュニオールさん(31)に開口一番、「ドラドはいるか」と聞くと「いる」。「ぜひ釣りたい」と頼むと「無理だ」。昨年から州内では資源減のため、ドラド釣りが漁師も一般客も禁止になった。「たまたま釣れちゃったらどうするの?」と聞くと、その場合も違反になるという。「W杯で警察も軍もドラドのポイントをうろうろしている。釣らせたいが難しい」。W杯による観光客増加はこんな場所にも影響を及ぼしていた。
痛恨だったが、川には大きなピラニアやパクーという魚がいる。しかも腹が金色っぽいという。標的をピラニアの大物に切り替えた。
赤土の泥の岸に立ち釣り開始。エサは20センチくらいのアナゴに似た「トゥビラ」を生きたまま使う。アーモンドチョコくらいの鉛の重りに、ワイヤにつながった大きな針をつなぐ。それを、ギターの弦より太いテグスに結び、思い切り振り回して遠心力で投げる。サオもリールもない豪快な釣りだ。
テグスを両手で持ち、アタリを待つ。20メートルも流したら感触が軽くなった。釣り糸をたぐり寄せると、トゥビラが頭だけに。何十回も放り投げるが、すぐにエサは同じようになって返ってきた。もはや仕事も忘れ、戦いだ。汗だくでエサを放り込み、頭を回収する作業を続けた。そして、ようやくガツン! 来た! 思い切り引くと、手応えがあった。川岸まで引き上げると、30センチはある分厚いピラニアだった。青っぽい透明感のある魚体は確かに、腹の方が金色に光っていた。
刺し身にすると絶品だという、どう猛な怪魚との熱戦を制した。日本代表もピラニアのような闘争心で、強敵コロンビアに何度も食らい付いてほしい。
◆クイアバ ブラジル南部、マトグロッソ州の州都。かつてはゴールドラッシュで盛り上がり、その後はダイヤモンドラッシュに沸いた。鉱物は露天掘り。数十年前まで、町の水たまりでも、探せば小さな金の粒が混ざっていたという。
現在は開拓が進み、野菜の大農場が多い。市の中心地には農業企業のビルがある。リオデジャネイロやサンパウロなどの大都会と比べるとかなり建物の背も低い。少し車で郊外に出れば、低い木が生えたセハード、その先にはパンタナルが広がる。約1000世帯の日系人が住んでおり、インディオの血筋の人も多く、街の人の顔つきはどこか懐かしい。