【エッセー】終電に乗らないと…西武岡田雅利を数人で囲んだ、最後のバックヤード/後

西武のホームを守り、ベンチを盛り上げてきた岡田雅利捕手(35)の引退試合&セレモニーが9月15日、ベルーナドームのロッテ戦で行われました。レギュラーじゃないのに、西武ファンの心をぐっとつかんだ選手。それは生でプレーを見たことのない記者の心さえも突き動かす人柄でもありました。惜別の一筆を。前後編の後編です。

プロ野球

◆岡田雅利(おかだ・まさとし)1989年(平元)6月30日、奈良市生まれ。大阪桐蔭では正捕手として2年夏に甲子園出場。3年春のセンバツでは中田翔(現巨人)とバッテリーを組みベスト8進出。大阪ガスを経て13年ドラフト6位で西武入り。21年オフにFA権を行使し3年契約で西武残留。プロ通算325試合、6本塁打、40打点、打率2割1分7厘。23年3月に球界でも前例がほとんどない「大腿(だいたい)骨・脛骨(けいこつ)骨切り術」を受けた。173センチ、80キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸1000万円。

■岡田の野球はキャッチボールとトスバッティングしか見ていない。しかも数度。

5回表の途中、ベルーナドームに到着すると旧知のファンがいた。「もう、すでにひと泣きしましたよ」と感極まっている。

しっかり振り切っての二塁打に、タッチアップで三塁へヘッドスライディング。ここにいる2万7000人以上は生で見たんだな~とうらやましくなる。

結局、私は西武担当になったご縁もあったのに、岡田の野球はキャッチボールとトスバッティングしか見ていない。しかも数度。

なぜ、そこまで彼に惹きつけられたのだろう。プロ野球選手1人1人にファンがいる。「愛される」のがプロ野球選手なのに、なぜ岡田はとりたてて〝愛される選手〟とファンや周囲から認識されているのだろうか。

引退セレモニーのスピーチで彼は「僕の人柄でしょうか」と言って、ニヤリとした。私の仕事をほめてくれた時と同じような、イタズラ好きの少年のような、あの顔。

■「奈良市なんですけど、なんか1つだけ違うみたいな」

奈良に生まれた。奈良市出身。とはいえ、奈良公園のシカに会うには少し時間がかかる。旧・都祁(つげ)村の出身だ。

「山奥なんすよ。どことも合併できないから、奈良市行っとけ、みたいな。奈良市なんですけど、なんか1つだけ違うみたいな感じですよ」

名阪国道がそばに走っているから、村とはいえそこそこ活気はある。街の中心に1つだけ背の高いスーパーが。1つだけ。岡田もそんな故郷から出てきて、唯一無二の存在感でライオンズにずっといた。

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1980年11月、神奈川県座間市出身。法大卒、2003年入社。
震災後の2012年に「自転車日本一周」企画に挑戦し、結局は東日本一周でゴール。ごく局地的ながら経済効果をもたらした。
2019年にアマ野球担当記者として大船渡・佐々木朗希投手を総移動距離2.5万キロにわたり密着。ご縁あってか2020年から千葉ロッテ担当に。2023年から埼玉西武担当。
日本の全ての景色を目にするのが夢。22年9月時点で全国市区町村到達率97.2%、ならびに同2度以上到達率48.2%で、たまに「るるぶ金子」と呼ばれたりも。